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「ねえ、三月。安室さんが体調崩してポアロを休んでるって、本当?」

「…え、なんで私に聞くの?」

「ええ?だって三月と安室さんって付き合ってるんじゃないの!?」

「…別に、そんな関係じゃないけど。」


うそー!と園子の大きな声につられて蘭も私の席へ駆け寄ってくる。

「だって安室さん、ミステリートレインの中で三月の事ずっと探してたし、心配してたよ?」

「そうそう、あれはもう恋人を探す彼にしか見えないって!お熱いねえお二人さん!」

「だから安室さんは…」


そこまで口を開くと私は急に押し黙る。
安室さんは、私にとって、安室さんは…?

フラッシュバックしたのはミステリートレインでのキスと彼の切なそうな顔。
いや、でもあのキスは私に睡眠薬を飲ませるためであって、決してそういう意味では…。

…それにしても、彼がポアロを休んでいると聞いて工藤はシェリーの始末に成功したと思い込んでいるし、もう自分達の目の前には現れないのではないか。
…そう言っていたが、私はそうは思わない。
ミステリートレインで私に届いた安室さんからのメールには暫く会えないと書かれてあった。

『信じてくれ。』

…私は彼を信じている。


「なーに妄想してんのよ!さては安室さんとのラブラブエピソードを思い出してたわね…!?」

「え?ちが…!」

「今日は離さないわよ?…というわけで、ファミレスへゴー!」

園子と蘭に腕を絡み取られそのまま帰路についた。


「…なんか、すごい行列だね…。」

「そうね。」

目的のファミレスのある大通りを歩いていると、長蛇の列に遭遇してしまう。
大人数が並んでいる割に、列の整備はきちんと成されてないらしく、人が歩道に溢れかえっている。
邪魔ねー、と言う園子を蘭が宥めながら「一体何の列だろう。」と呟いた。


「今日、新作ゲームの発売日だから。きっとその列だよ。」

「へぇ、三月、ゲームするんだ。」

「両親の仕事が忙しかったから昔はよく家でゲームとかしてたよ。」

「…にしても、何か、騒がしくない?」

「…確かに。」


それに、もう昼過ぎだ。いくらなんでもまだ店がオープンしていないと言うのは遅すぎる。

列に並んでいる人に声を掛け、聞いてみると、どうやらオープン時間から1時間もたっているらしい。

店の入口前へ近付くと変にそわそわしている店員がならんでいる客に問い詰められていた。


「なんでまだオープンしないんだよ!!」

「もうオープンの時間から1時間も経っているじゃないか!」

「俺なんて朝イチで並んでるんだぞ!?」

「お、お客様!申し訳ございません、もう暫くお待ちください…!!」


ねえ、何だか様子が可笑しいよ、という蘭に同意し、店員に近付く。

「あのー…何故まだオープン出来ないんですか?準備がまだとか…」

「…それは。」

「ちょっと、ハッキリしなさいよ!!そんなんで待ってる人達が納得するわけないでしょ!!」


詰め寄る園子に店員はたじろいだが、
と、とにかく言えない物は言えません…!と、口を割らない。

「もうファミレス行こうよ。」

「そうね。私達には関係ないし…。」

私はすごく気になる…という言葉を胸の中に押し込んでゲームショップを通り過ぎようと歩き始めると、だんだん遠くで鳴っていたパトカーのサイレンが大きくなり始めた。
物凄いスピードで道路に現れた複数のパトカーはなんと、ゲームショップの前で一斉に止まり、バタンと開いたドアからは佐藤刑事と高木刑事が降りてきた。


「佐藤刑事に高木刑事!」

「一体何の騒ぎですか?」

「蘭さんに園子さんに、赤崎さん!」


高木刑事は私たちを見つけると、こちらへ駆け寄ってくる。


「実は、このショップ内で殺人事件があったみたいで…」

「ちょっと!高木君!」


少し口が滑るどころでは無い所まで吐いた高木刑事の発言は佐藤刑事が止める間もなく私達の耳へと入っていってしまう。

さらに、その言葉をオウム返しする様に園子が声を張り上げた物だから、それを聞きつけた列に並んでいた人達が一斉にパニックになってしまう。

落ち着いてください!落ち着いて…!と警察が呼びかけるが、一向にパニックは収まらない。


「佐藤刑事、私も捜査に参加させて下さい。」

「三月ちゃん…ええ、勿論。」


佐藤刑事の同意を得ると蘭と園子にファミレスへ先に行くよう伝え、早急に張られた規制線を越え、店内へと足を踏み入れた。


殺人現場であるフロアに入るとソフトの並べてあった棚は倒され、ゲームが床に散乱していた。

死亡推定時刻は恐らく早朝。死因は撲殺。


「…でも、妙ですね。」

「どうかした?」

「遺体があった場所はゲームが散乱していた場所と少し距離があります。遺体がうつ伏せに倒れていると言うことは後ろから撲殺…恐らくゲームは殺害後に荒らされたのではないでしょうか。」

「げ、ゲームを盗むために殺したって言うんですか…!?」

「考えにくいですが、その線もあるも思いますよ、高木刑事。」

「で、でも殺した後に移動さてたって事も…」

「それはないです。」


遺体の頭部からはかなりの出血が見られる。にも関わらず出血はうつ伏せで倒れている遺体の側の床にしかない。
と言うことは、被害者はここで撲殺されたと見て間違いない。

「…最も、犯人が血を拭いているのなら話は別ですが…そうしなければならない理由がないので。」






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