「工藤ー!」
ピンポーン、彼の家のチャイムを鳴らしても反応は帰ってこない。
電話で急いで家に来てくれって言うから走ってきたのに、家主がいないとはどういう了見だ。
もう1度チャイムを押して出て来ないようなら無理やりこじ開けてでも…と考えていると、タイミング良くスマホが鳴る。
着信画面には工藤新一と表示されていた。
「…もしもし。」
『今走ってそっちに向かってる!悪いけど、先に入っててくれねぇか?』
「別に良いけど、入ってどうしたらいいの?」
『それは、俺が着いてから説明する!中にいる人にもお前の事は伝えてあるからそのまま開けて入ってくれ!!』
「中に居る人…?」
ガチャリとそのまま工藤邸の扉を開くと1足、工藤にしては少し大きめの革靴が置いてあった。
もしかしたら優作さんが帰ってきているのだろうか…。
「優作さん?」
声で呼び掛けても返事はない。
少し不審に思いリビングへ向かい、廊下からリビングへ繋がるドアを開いた。
「…。」
「…あなたは…!」
扉の奥には、この間博士と哀ちゃんと一緒にいた…沖矢昴さんがいた。
「沖矢昴さん…ですよね。何故ここに…?」
「……。」
問い掛けるも彼が返事をすることは無い。
口下手?コミュ症?
…冗談はさて置いて、とりあえず工藤が駆けつけるまでリビングで寛ぐ事にした。
「あの、私赤崎三月って言います。家主の工藤優作さんと私の父が親友で…」
「……。」
「あのー…沖矢さん?」
何故喋らない。…否、喋れない?それとも、今喋ってはいけない?
「貴方の声を私が聞くと不味いんでしょうか。」
沖矢さんへそう告げると彼は少し困った様に笑った。
彼の少し困った顔に私の探究心が煽られる。
「…例えば貴方が…声を変えて普段生活しているとか。」
そう私が言った瞬間、沖矢さんの目が大きく見開かれる。
そう、一瞬。ほんの一瞬。
「…!」
その目にヒヤリとした物を感じた。
まるで蛇に睨まれた蛙のように私は身体が固まってしまう。
…何、今の感覚…!
そのまま目を閉じた彼は急に私の手を取ると、私の掌を指でなぞり始めた。
「…す、ま、な、い……こちらこそ、変に詮索してしまってすみません。」
指文字ですまない、と私に伝えた彼は元の様にニッコリと笑った。
…でも、今の一瞬見えた目…何処かで見たような…。
そのタイミングでガチャリと玄関のドアの開く音がすると共に、ランドセル姿の工藤が部屋に駆け込んできた。
「こんにちは!昴さん!…三月姉ちゃん!こっち来て…!」
「え、あ、うん。」
工藤に手を引かれて私はそのままリビングを出た。
手を引かれたまま連れられたのは工藤家の書斎。
中は昔と変わらずズラリと部屋いっぱい本や資料が部屋中に広がる本棚に並べられていた。
「工藤、急に呼び出しといて遅れてくるなんてーー」
「赤崎、時間がねぇから単刀直入に言う。」
「…?」
「今からこの家に蘭達が来る。もし蘭達が何かを言っていたら今から俺の言った通りにしてくれ。」
「それはいいけど、その内容は…?」
「おじゃましまーーす!」
「…世良さんの声が…!」
「もう来たのか…!とりあえず、今話した通りで頼む…!」
「了解。」
工藤と別れて声のする方向、玄関へ向かう。
廊下を歩く足音が複数聞こえる。どうやらもう家に上がっているらしい。
私が洗面所の前を通りかかると丁度、蘭達と歯磨きをしている沖矢さんが鉢合わせていた。
「あのーー、コナン君が来てると思うんですけど…」
そう問い掛ける蘭に沖矢さんはジェスチャーで居場所を教えようとしているが、なかなか上手く伝わらなかったらしい。
私は洗面所に踏み入れると蘭達の背中に声を掛けた。
「コナン君は今書斎にいるよ。」
「え?三月?」
「何でここに三月が…?」
「えーと、沖矢さんに少し用があって…」
ちらりと沖矢さんを見ると、彼も首を立てに何度もふっている。
「三月って、昴さんと知り合いだったんだ…」
「ふーん、2人の関係も気になるところだけど…じゃ、そっちに行ってみよ!」
部屋を出て書斎の方へ向かう蘭と園子。私も書斎へ行くか…と部屋を出ようと出口をみると、静かに沖矢さんを見ている世良さんが目に映った。
一体どうしたんだろう。
「うん、わかった…」
沖矢さんから目を逸らさないまま世良さんは洗面所から出て蘭達の後に続いた。
…あ、 目…そうだ、さっき一瞬見えた沖矢さんの目。
どこかで見たと思っていたら…
世良さんの目とそっくりなんだ…。
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