暫く前のターゲットと同じ様に巡回し、安室さんと時には会話を楽しみながら、ターゲットについて考察しながら館内を歩き回っていた。
ふと、私の友人がもう1度あそこが見たい!と引き返した瞬間、こそこそと人混みに紛れ去る、怪しい人物を発見した。
「…あの人、どこかで…。」
「三月さん?」
「どうやら、女の影があると言うのはあながち間違ってないようですね。…でも浮気ではありませんよ。」
「…何故、そう言い切れるんですか?」
「私の予想が正しければ今までの尾行結果にも納得が行きます。」
さあ、合流しましょうか。ターゲットが男子トイレに入ったのを確認すると、安室さんの手を引き、私は依頼主である友人の元へ歩み寄り「あれ!奇遇だね。」と話しかける。
「三月!ほんと偶然ー!ってそっちの人、三月の彼?」
「そ、そうだよ。イケメンでしょ!」
安室さんはちゃっかり友人に自己紹介をしていて、私は苦笑いがこぼれてしまう。
「それで、三月、あの事なんだけど…」
私はゆっくりと頷くと、数歩彼女の側へ歩み寄り、彼女の後ろの方の人ごみから、ある1人の手を掴んだ。
「では、答え合わせと行きましょうか。」
そのままぐいっと掴んだ手を掴むと深々と帽子を被った女性が現れた。
人ごみから出てきた衝撃で彼女の帽子ははらりとしたに落ちる。
「…あなた確か!!」
「そう。彼女は彼の妹さんです。…さて、何故妹さんがここにいるのでしょうか。」
「た、たまたまですよ!私はただ友達と遊びに…!」
「じゃあ、どこにいるんですか?あなたはずっと1人で行動していましたよね。」
妹さんはそう私に言われると悔しそうに唇を噛み締める。
何故尾行していたにも関わらず犯人が割り出せなかったどころか、出現しなかったのか。
そう、もしその犯人が妹なら彼の行動パターンを知っていても不自然ではないし、彼に近寄っても不自然ではない。
とすると、何故妹の彼女が彼を付け狙っていたのか、その理由はごく単純。
「あなたは、お兄さんを…」
「言わないで!!」
私の言葉を強く遮るように妹さんが声を張り上げる。
幸い館内はがやがやしている為、その声が目立つことは無かった。
「それを言ってしまえば、私はお兄ちゃんと一緒にいられない…!」
「だからと言って付け回してもいい理由にはなりませんよ。」
「だって、仕方が無いじゃない!!だって、わたし、わたし…!」
そう。彼女は好きになってはいけない人を、好きになってしまったのだから。
「好きな人に素直になれない気持ちはわかります。それがましてや結ばれない相手なら尚更…でもそれを理由に彼女に当たるのは間違っています。彼女を傷付けたとしても、それ以上に傷付くのは貴方のお兄さんなんですよ。」
妹さんは大粒の涙を流しながら崩れ落ちる。
何度も何度も、小さくごめんなさい、と呟く。
「あれ?赤崎じゃん!それと、お前、何でここに…?」
「お兄ちゃん…。」
突然の兄の登場にあたふたしながら私は妹さんを隠そうと、彼と彼女の間に割って入る。
どう誤魔化そうかまごまごしていると、友人が口を開いた。
「友達とはぐれちゃったみたいなのよ。」
「そ、そうそう。私はこの子と友達探すから。」
「え、赤崎が?何か悪いし俺も探すの手伝う。それに心配だから…」
友達を探す事になったらいよいよ誤魔化しきれない。
どうした物かと悩んでいると、突然、妹さんはスクっと立ち上がった。
「大丈夫!お兄ちゃんは折角のデートなんだから、そっちを楽しんでよ!」
そう言うと妹さんは私の手を掴んで2人から遠ざかるように人ごみを抜けていく。
その横顔はどこかすっきりとしている様に私には見えた。
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