「え?私に依頼…?」
「そうなの!近々、彼とデートする事になってるんだけど…どうやら、彼に女の影があるみたいなの!」
「…浮気調査ってこと?」
「暫く彼を見張って欲しくて…それと、今度の日曜日に彼と水族館に行くからその日もお願い…!もちろん、チケット代は出すし…!」
「尾行はいいけど、1人で私が水族館に行っても逆に浮いちゃうよ…?」
「大丈夫!チケットは2枚奢るから、三月の彼と2人で来なよ!」
友人は浮気調査を依頼したにも関わらず、楽しげな顔で私を見た。
「…あ…うん…。」
「はあ?俺?」
「お願い工藤ーー!蘭も園子も世良さんも、その日は用事があって…!」
誰がお前と2人で水族館なんかに…
と、わざわざケーキまで奢ったにも関わらず工藤新一は一向に首を縦に振らない。
「なあに?私と水族館デートは不満?」
「不満じゃなきゃもうとっくにOKしてるね。」
「このクソガキ…」
「それに、俺を誘わなくてもいるじゃねぇか、誘えば喜んで付いてきてくれる彼氏が。」
「は?」
工藤はニタリと意地の悪い笑みを浮かべると「安室さーん!」と店内の調理場にいた安室さんに話しかけた。
「ちょ、くど…じゃなくてコナン君!」
「どうしたんだい?コナン君。」
「あのねあのね!三月お姉ちゃんが安室さんと一緒に水族館に行きたいって言ってるよ!」
ぐ…こういう時だけ子供ぶって…!工藤の頭を1発ひっぱたきたい衝動に駆られたが、安室さんの前でそんな事は出来ない踏みとどまって、安室さんに事情を伝えた。
「へえ、浮気調査ですか…」
「はい。特に女の影があるということは無かったので、次の日曜日に何も起きなかったら調査終了なんですけどね。」
「どう?安室さん、日曜日は予定ある?」
そう訪ねる工藤に安室さんは少し考えた後、何とかする。と言った。
「え?予定あるの?」
「ええ、依頼主と落ち合う予定がね。…でもそれは土曜日にしてもらうことにするよ。」
「ええ!そんな、そこまでしなくても…!」
「いえ、大した依頼じゃないですし、それよりも三月さんと水族館デートの方が大事ですよ。」
「で…!?いや、あの、デートでは…!」
またもニタリと笑う工藤を横目に私は半強制的に安室さんとの浮気調査の予定をこじつけた。
安室さんはちょっと待っててください…と店の奥の方でスマホを取り出し、何処かへ電話をかけ始めた。
十中八九、日曜に落ち合う予定だった依頼主だろう。
「工藤のバカ。」
「いいじゃねえか、それに、安室さん嬉しそうだ。」
「……バカ。」
日曜日、水族館前の階段付近の待ち合わせ場所に私は10分前に着いたはずなのに、既に安室さんはそこにいた。
私に気付いて手を振ってくれる。
「す、すみません、お待たせしてしまって…!」
「僕が楽しみ過ぎて早く来てしまっただけたので、大丈夫ですよ。それよりも…その服、とても似合ってますよ、僕の為に選んでくれたんですよね。とても可愛いです。」
その台詞、そっくりそのまま返しますよ…
今までどれだけ友達にその服可愛いね、等と褒められようとも大して気にも止めていなかったのに、安室さんがその言葉を使うだけで、なんて破壊力なんだ。
実は昨日の夜から必死に選んだ…なんて事は言えない。
「あ、ありがとう…ございます。」
安室さんはいつもの事ながら服のセンスはピカイチだ、かっこよ過ぎて私達が傍から見てもカップルに見えるかどうかは怪しいかもしれない…。
だから昨日の夜、彼に釣り合う大人っぽい服を選ぶために必死に服を選んだのだ。
「それで?ターゲットは…」
「あそこで今ベンチに座っているカップルの、彼氏の方です。一応、2人とも私と同じクラスなので、出来ればこちらに気付かれたくないですね。」
こそこそ隠れるわけでなく自然に会話をする様に彼の情報を安室さんに話していると、安室さんはくすっと笑う。
「…どうしたんですか?」
「いえ、何か三月さんが探偵をしている姿を見るのは新鮮で…今日僕が三月さんの助手ですね。」
「あ…あ、ああ、ターゲット動き出しましたよ!私達も入りましょう!」
はいはい、と私の反応を楽しむ様に安室さんは私に手を差し出した。
「…え?」
「カップルが手を繋がないのは不自然では?」
差し出された手にぎこちなく私の手も差し出すと、安室さんの手は私のそれを柔らかく包み込んだ。
あれ、これって、恋人繋ぎ…
今から人を尾行すると言うのに、私の心臓は煩くてそれどころではない。
ふと安室さんの楽しそうな顔を見てしまうと私は否定の言葉を出せそうになかった。
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