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壁を伝う真っ赤な液、壁に寄りかかり起き上がることのない男の人…
不意に私はその姿をあの日の両親と重ねてしまったのだろう。
全身を冷や汗が伝い、私は意識ははっきりしているものの、その場に崩れ落ちてしまった。


「…三月姉ちゃん!!大丈夫!?」

「三月さん!?」


どうやらあの日の事を私はまだ引きずっているらしい。
安室さんに抱き上げられてソファーに寝かされる。
その時かすかに見えた彼の焦った表情にどこか懐かしさを感じながら私はゆっくりと意識を手放した。








(くそ、閉じ込められた…)

どうやら、どこかの廃ビルの物置に押し込まれてしまったらしい。
口も塞がれ、両手も縛られてどうする事も出来ない。
犯人は恐らく最近父への逆恨みから父さんを付け狙っていた男。

中学の部活帰りにまんまと囚われてしまった私は眠らされてしまった。


(ドアも蹴破れそうにないし、窓から脱出はできそうだけど、ここは多分3階。手を縛られた状態で落ちたら死ぬ確率の方が高い…どうすれば…)

どうすれば、警察に居場所を教えられるだろう。
そうこうしている間に焦げ臭い臭が鼻をかすめる。
じわじわと侵食するかのように倉庫は段々と火に包まれていく。

部屋の隅、窓の近くにより煙を吸い込まないように下へしゃがみこむ。
火の手が迫れば、足がすくんでしまい動く事は出来ない。

誰か…誰か…
祈るように目をつぶった刹那。
パリンと大きな音を立てて窓から誰かが部屋の中に入りこんでくる。
警察の人だろうか。

器用に私の口と手首を縛る布と縄を解くと「大丈夫か!?」と私の肩に手を当てた。
多分、男の人の声だ。

ゆっくり頷くと、その人に抱き寄せられて、私は酷く安心してしまってそのまま意識を手放した。






あれ、私は…。

「…三月さん!良かった、気が付いたんですね?」

「三月!」

目を開けるとそこには安心した顔をした安室さんが。
すぐに蘭も近くへ来てくれた。

そうか、私は拳銃自殺した犯人を父さんと重ねて…。
そして、さっき見ていた夢はあの時の…私が中学の時、事件に巻き込まれた時の…。


起き上がり周りを見渡すと、目暮警部や高木刑事がいた。警察が到着し私達の事情聴取が執り行われていたらしい。

結論、先程の男性は自ら拳銃を発砲し、即死だったという事に。



「三月さん、本当に大丈夫ですか?」

「安室さん…大丈夫ですよ。」

「よかった…。」


そう言うと安室さんは手を伸ばし、私の頭に触れる。
数回ポンポンと優しく撫でられると手を引っ込めた。
私はと言うと、そんな安室さんの行動に身体が固まってしまう。異性に頭を撫でられるのは初めてではない。
撫で方が優しかったのか、安室さんだからだったのか、私の心臓はやけにうるさい。


被害者である樫塚圭さんは毛利さんに依頼しようとしていたコインロッカーの鍵を狙われ、拘束されたという。
なんでもそのコインロッカーの中身は4日前に亡くなったお兄さんの遺品だとか。


「おい、大丈夫なのかよ。」

「ああ、ちょっとあの日と似てたんで、つい…。」

「ついって、お前なあ。」

「三月?コナン君?どうかした?」

「い、いや!何でもないよ、蘭姉ちゃん!」

工藤も大変だなあ。


時間も遅いので改めて明日また事情聴取をするらしく、私達は解散となった。
安室さんに勿論送ります、と言われてしまっては断る事も出来ない。

一緒に被害者の樫塚圭さんも送ることになると毛利さんや蘭、さらには工藤までも付いてくる事になった。

安室さんの愛車、白いRX7は人でぎゅうぎゅうになった。
工藤は座る場所がないので蘭の膝の上に座ることになったけれど、変に照れすぎている姿がとても可笑しくて笑ってしまうと、当の本人からは睨まれてしまった。


樫塚さんの住んでいるというマンションにはあっという間に到着した。
樫塚さんは周りに待ち伏せている不審人物がいない事を確認するとエレベーターから降りて「ここでもう大丈夫です」と私達へ言う。

そのまま扉に入るまで見送ろうと毛利さん達に続き私もエレベーターから降りると、工藤が「トイレに行くの忘れたーー!」と大きな声を上げた。

工藤に続き、どうやら毛利さん達もトイレを我慢していたようで結局、全員で家へ上げてもらうこととなった。

樫塚さんがガチャっと扉を開けた瞬間、何か変な臭いが鼻をかすめる。
もし、この臭が私の予想通りならば…

工藤、そういう事だったのか。

樫塚さんが部屋を片付けると言って皆のいるリビングから立ち去った瞬間、私もそれを追うように部屋から飛び出る。

真っ直ぐ玄関へ向かうと靴を履き何処かへ行こうとする樫塚さんと工藤の姿があった。
工藤、1人じゃ危険だ…!


「樫塚さん。コナン君とどこへ?」

「あ、ああ、お茶っぱが切れたからコンビニに買いに行くのよ。」


彼女の顔からは明らかな動揺が読み取れる。とにかく彼女と工藤を2人で行かせるのは危険だ。
なら、私も行きます。私もコンビニで買いたいものがあって…と彼女を説得し、同行することとなった。


樫塚さんはちょっと待ってて、と車内に私と工藤を残すと何処かへふらふらと消えていった。


「工藤、どう思う。」

「ああ、俺の推理が間違ってないとしたら、今から彼女が向かうのは銀行強盗の最後の1人の家…。」

「お兄さんは殺された銀行員ね。」

「おそらく、兄じゃねえ。」

「え…?じゃあ彼女は…。」

コツコツと外で足音が聞こえ、車へと戻ってきた樫塚さんを確認すると、私は工藤を見つめていた視線を横へ逸らした。








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