メールの呼び出し主は実は目暮警部ではない。
工藤だ。
『会わせたい人がいるから阿笠博士の家に来てくれ』
という内容だった。
阿笠博士というのは工藤のお隣さんで、天才発明家だ。
私も昔工藤の家に遊びに行った時に何度かお世話になった。
しかし、何故自宅ではなく、博士の家に…?
チャイムを押せば博士家の扉が開いた。
「おお!三月君!久しぶりじゃな!」
とあの頃と変わらない阿笠博士が顔をのぞかせると私は中へ向かい入れられた。
中に入るとソファーに座っていた工藤が顔をこちらへ向けた。
「よお、来たか。」
「その態度って事は、どうやら博士もその身体の件、知ってるみたいだね。」
「ああ、そしてお前に合わせたかったのはもう一人…出て来いよ。」
工藤に呼ばれ、部屋に顔を見せたのは小学生くらいの女の子だった。
誰…?と思わず私が声を漏らすと少女は小さく「灰原哀」と名乗った。
「灰原哀?聞いたことないなあ…どこかであったっけ?」
「いいえ。でも貴方の両親の事は知っているわよ。組織のブラックリストに名前があったから。」
「…組織!まさかあんた…」
「元、組織の一員よ。」
灰原哀、本名宮野志保は組織の科学者だった。
姉の宮野明美を殺害され、組織から逃げる際に工藤と同じ薬…アポトキシン4869を服用し、身体が縮んでしまったという。
「やはり、父さんも母さんも組織について探っていて、奴らに気付かれたのか…」
「そうみたいね。あなたも工藤君の様に奴らを追っているのならやめなさい。死ぬわよ。」
「灰原…!」
灰原哀の真剣な眼差しに当てられ、私は冷や汗を流す。
それほど迄に恐ろしい組織だと言うのか。
「私は、奴らを捕まえるまで死なない。」
「彼らは貴方が思っているよりも、残虐で凶悪よ…!貴方みたいな女の子なんて、人捻りよ…!」
「確かに、私はただの女子高生。奴らに捕まれば簡単に殺されてしまう…でもね。流れてるんだよ。日本の為に命を懸けた…父さんと母さんの血が。」
左胸に手を当て真っ直ぐ灰原哀を見つめる。
その為なら命が惜しくないとは言わない。でも、必ず奴らは。
「私が捕まえる。」
という訳で仲良くしてね、灰原哀さん。
しゃがんで彼女と目線を合わせて私はそう呟いた。
「…CIAの諜報員が、組織に?」
「ああ、アナウンサーの水無怜奈だ。コードネームはキール。」
「…他にスパイは…」
「赤井秀一。」
「赤井…?何処かで聞いたような…。」
「FBIから組織に潜入していたスパイだよ。…もっとも、水無怜奈の手によって殺されたけどね。」
思い出した。赤井秀一、FBIきっての切れ者で射撃の名手。
父も何度か彼の話題を出していた気がする。
もちろん、部下との電話の内容を私が盗み聞いていたのだが。
「言っておくが、黒ずくめの組織の事や俺や灰原の幼児化の事は俺の両親とここにいる3人、あと1人しか知らない。ぜってえに漏らすなよ。」
「わかってるわかってる。…ってあと1人って?」
「西の高校生探偵、服部平次。」
その名前を聞いてすぐに色黒の関西人が脳内に現れた。
西の高校生探偵、服部平次。彼もまた工藤と同じように何度か一緒に事件を解いたことのある凄腕の探偵だ。
剣道の腕も一流で、私も剣道はやっていたけれど、きっと彼の足元にも及ばないと思う。
そういえば、今日あった彼も…安室さんも色黒だったな。
いや、今はそんな事はどうでもよくて…
「秘密は遵守。約束する。」
「ああ、それと頼みなんだが…」
「えー!暫く探偵事務所に通って欲しい!?」
「お前がいる方が蘭達に疑われずに捜査しやすいんだ!頼む…!」
そうはいわれても…少し言い渋るが途端、パッと脳内に笑顔で手を振る安室さんの姿が浮かんだ。
そっか、探偵事務所に行けば弟子である彼と会う機会は増えるんだ。
そう思うと私は無意識に首を縦に振っていた。
…あれ、ちょっとまて、なんで私は安室さんを理由に承諾したのだろう。
首を傾げる私に「どうしたんだよ」と工藤が問いかけると、考えていた事はポロッとどこかへ飛んでいってしまった。
かくして、前途多難な日々は幕を開けるのだった。
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