バタバタと慌ただしくスタッフルームであろう奥から女性店員が出てきたところで、何か事件が起きたであろう事を察する。
「店長、店長が血を流して…!!誰か…!」
駆け込んできた女性店員の一言で辺りはパニックになる。
いけない、このままでは。私が入口に駆け込もうとした瞬間、私よりも先に扉の前に立ち塞がった少年は大きな声を出した。
「みんな出ちゃダメだ!!今出たら、犯人だと疑われちゃうよ?」
「この喫茶店、裏口はありますか?」
いいえ、と首を振る店員の言葉を確認し頷くと私は扉の前に立ち塞がった少年、コナン君をみた。
「誰も出てないよね。」
「大丈夫。誰も出てないよ。」
いち早く扉を塞いで裏口がないか確認したのは現場保存のため。
だとしても、この少年は一体…。
直ぐにスタッフルームで倒れているという店長の元へ駆け寄り脈をとるも、どうやら、もう手遅れらしい。脈を取ることは出来なかった。
「腹をナイフで一突き、揉めた形跡もない。なんて鮮やかな犯行…。」
「ああ、血が乾いていないところを見ると、まだそう時間は経ってねえ。」
「…随分と手馴れてるね…コナン君。」
「へ?え?あ、ああの、小五郎のおじさんの真似だよ?」
「そっか」とコナン君から視線を外して腰を上げ周りを見渡せば不安そうな蘭と園子がうつった。
「三月、あなた一体…。」
「工藤新一と同じ…って言えば分かりやすいかな?」
「新一と、同じ?」
そのタイミングでパトカー独特のサイレンが聞こえ、店の扉が開かれると数人の警察官が店内へ入ってきた。
「君達も居合わせたのかね!?」
警視庁捜査一課の目暮警部は蘭、園子、コナンと順々に顔を合わせ驚くと、最後に私を見た途端、目を見開いた。
「き、君は…!!」
「三月と知り合いですか?目暮警部。」
「お久しぶりです、目暮警部。」
「ああ、三月君は工藤君と同じで高校生探偵。何度か助けて貰ったことがあってね。」
「えええ!三月が高校生探偵!?」
「意外だった?それに、私のお母さんと警部は同期だから…。」
茶化すように蘭達に言うと警部と共に私は事情聴取を始める。
事情聴取をしてわかったことはごく簡単なトリック。犯人もあの人だろう。
しかし、あのコナンっていう男の子…。
「…取り敢えず一通り事情聴取しましたが…」
「……。」
「…赤崎さん?」
「……。」
「三月?」
「あ、ああ。…コナン君、ちょっと。」
コナン君の手を掴んで店内の隅の方へ寄ると、少し困惑気味な彼の耳に口を寄せた。
「犯人、分かってるんだよね?」
「…!な、何のこと?」
「君、犯人の事目で追ってたよね?」
「…ぼく、何にも知らないよ?」
見間違えではない。事情聴取を終えた時からずっと、彼は、コナン君は犯人を見ていた。いや、ヘタをすると最初から…。
そして事件が起きた時や死体を見た時の動き、この少年は一体…。
「どうしたの?三月、コナン君?」
「ら、蘭姉ちゃん!何でもないよ!」
「あっ…。」
声をかけてきた蘭の方へ振り返っている間にすり抜けられ、逃げられてしまった。
「…この事件のトリックがわかりましたよ…もちろん、犯人もね。」
「な、何だって…!?」
「さあ、まず何処から話しましょうか…。」
事件は無事解決。犯人はそのまま目暮警部達に連れられて車へ乗せられた。
「あの事件をあっという間に解いちゃうなんて…!三月凄いじゃないの!」
「だてに高校生探偵は名乗ってないって事。まあ、もっとも…工藤新一ならもっと早く解いてたけどね。」
「えっ、新一?」
「工藤とは何度か現場で一緒になったけど、彼の方が私より力量は上だからね。」
「ね、ねえ、それって最近!?」
「え?…ああ、うん。最近かな。一週間前くらい。」
私がそう言うと蘭はホッと胸をなで下ろす。
暫くあっていない彼がどうやら彼女は心配らしい。
その彼女の姿を見て疑問が確信に変わる。あの人が言っていた事も、目の前の彼も。
転入したクラスには工藤新一も通っていると聞かされていた。なのにも関わらず彼の姿はどこにもいない。
点呼されていないにも関わらず出席簿には彼の名前の欄に欠席印が押してあった。点呼ですっ飛ばされるほど何日も登校していない証拠だし、印があるという事は、転校もしていない。
そして今の蘭の質問…まるで何日も会っていないような問いかけ。
不登校や事件で忙しくて学校へは行けなくても流石に実家には帰るだろう。
そうなると工藤新一と幼馴染みの蘭が全く会っていないというのは奇妙だ。
そして、私の顔を見た途端変な顔をした彼、コナン君。
良く見ると幼い頃の工藤新一によく似ている。
彼に耳打ちした時彼のレンズを至近距離から盗み見たが、彼のメガネには度は入っていない。
なぜ、そんな事をする必要がある。
…となると、些か信じ難いが、考えられるのはただひとつ。
「おい!蘭!ボウズも、また事件に巻き込まれたって…!」
「あ、お父さん!迎えに来てくれたの?事件なら三月が解決させたわよ。」
「三月…?」
「はい。赤崎三月です。よく母から話は伺っていました。毛利探偵。」
深々とお辞儀をする私を呆然と見つめる毛利小五郎…蘭の父親は何とも難しげな顔で私へ向き直った。
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