「嘘…」
私の目の前に広がるのは、赤。
まだ乾いていないそれはツーっと静かに壁を伝い流れる。
元を辿るように視線を上へ向ける。
そこには、大切な、私の大切な人達が2人。
「父さん…!母さん…!」
「三月…か…」
「父さん!しっかりしてよ!母さんも…!」
「逃げろ…三月…」
必死に声を絞り出す父と、必死に父の名を呼ぶ私。
その後ろで聞こえたザッという足音に私が恐る恐る顔をそちらへ向けるとカチャリ、冷たい何かが私の頭に当たる。
拳銃だ。私の真後ろにいた見知らぬ、顔を隠した人物は私の頭に拳銃を突きつけこちらを静かに見ていた。
恐怖心から私は動く事は出来なかった。
父と母は拳銃で胸を撃たれている。この状況に冷静で要られるはずもない私は只只震える手で父と母の手を握った。
母の手は冷たい。
「父さん…母さん…なんで…どうして…?」
涙がボタボタと頬を伝い、着ている制服に染みをつくった。
「三月…お前を愛している。」
「父さん…私もだよ。」
「目に、見えて、いるもの…だけが、真実とは…限らない…。」
「どういう…」
バアン
刹那、私の顔を生暖かい物が伝う。
「あ、ああ、あああああ…」
私の物ではない。これは目の前の。
「と、う、さん…?」
もう目を決して開けることのない父の血だった。
私の意識はそこで途切れる事になる。
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