私は素人でミュージカルの練習風景なんて全く見たことはないけれど、彼らの練習風景をたったの一言で表すとするならば「完璧」この二文字に尽きる。

軽やかなステップ、甘い歌声、今いるのは学校の稽古場の筈なのにどこか他の場所にいるかの様なそんな感覚に陥った。彼らの演技に囚われてしまって息をするのも忘れてしまうかのようなそんな感覚。

まだ模索中だというアヤナギ・ショウ・タイムもほぼ完成された出来だと思った。
本当は拍手の一つでもするべきなんだろうけど、それすらも忘れてしまっていた。


少し休憩に入ろうか、と言う辰己君の一言でみんな一斉に脱力する。私もふと我に返る。

そんな彼らの姿はまるでさっきとは真反対の別人の様で少し笑ってしまう。虎石君はケータイを弄ったり、戌峰君は何か変な歌を歌っていたりと自由だ。
私が先ほどの練習の余韻に浸っていると辰己君と申渡君がこちらにやってくる。


「どうだった?」
「どう…って素人意見じゃ参考にならないよ…。」
「何でもいいから思った事言ってもらえると励みになるんだけどなあ。」
「うーん」


辰己君にそう言われ、みんなの顔を順に見つめる。虎石君は電話をしながらウインクして来たがこの際気にしないでおこう。


「わくわくした。」
「わくわく?」

「何ていうか、うまく言えないけど、自分がこの人達の舞台をサポートするんだって思うと、わくわくした。はやく完成形が見てみたいな。」


私が言うと2人とも顔を合わせて押し黙ってしまった。なにか不味いことを言ってしまっただろうか。


「ごめん、素人にこんな事言われてもどうでも…」
「いや、違うよ。…それって俺達の演技が華咲さんの気を惹いたって事だよね?」
「まさかそんなコメントが帰ってくるとは…嬉しい限りです。」
「そうだね、完成したら1番に華咲さんに見て欲しいな。」
「ほっ、ほんとに!?」



華咲さんは照明さんだから、どうせすぐに見る事になるんだけどね。と辰己君が言うと、私は「照明さん」という単語にじーんときてしまった。

私、これから一つのミュージカルに関わるんだ。
大好きな音楽に。



「練習、見学させてくれてありがとう。そろそろ打ち合わせだから、行くね。」
「うん、こちらそこありがとう。俺達のチームとは明後日だっけ?」
「うん、また明後日に。」


それからteam柊の全員に挨拶して私は練習場所を後にした。

戌峰君がばいばーーい、と1人大きく手を振り始めると皆もつられて手を振ってくれる姿を見て、やはりこうしてみると皆年相応だな、と少し微笑ましかった。
虎石君が華咲ちゃん、メアド!と再三口にしていたが、何も聞かなかったことにしよう。

…それにしてもたくさんの美形に手を振られる日が来るとは…友人には黙っておこう。










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