一旦休憩しようか、と言う現場監督の一言で先程までの真剣な空気はウソのように消え失せる。
方々から笑い声や会話が聞こえてきて単純に、いい現場何だろうな、と思った。

乱雑に書き留めた手の平サイズのメモを片手に暫く照明のスタッフさんの話を聞いているとスタジオから休憩で出ていった遥斗さんが戻ってきた。


「頑張りすぎるのも結構だけど、そろそろ休憩が終わってしまうよ。」


はっと時計を見ると休憩と言われてから随分時間が経っていた事に気付く。
しまった。自分の都合でスタッフさんの休憩時間を潰してしまった…。

ペコペコと、何度もすみません、と頭を下げると「熱心で結構。教えがいあるよ。 」
と返されてしまったので、喜んでいいのやら…
正直言うとここからどう話を切り出していいのやら分からなくて黙り込んでしまうと、すっと目の前に缶ジュースが差し出された。


「えっ」

「これ飲んで午後からも頑張れ。お前もいる?」

「おお、サンキュ。」


ジュースを差し出した遥斗さんにお礼を言いジュースをの缶を切り口を付ける。
100%なのだろうか、ジュースはほんのり苦い味がした。


午後も同じスタッフさんについて回る。
真っ白だったメモ張がどんどん埋まっていく。
明日は華咲さんにもこれをやってもらうからね。と言うスタッフさんの言葉で更にモチベーションは上がる。
気が付けば研修の終了時間になっていた。


「研修初日、お疲れ様。どうだった?」

「とても勉強になりました。それに、楽しかったです。明日もよろしくお願いします。」

「それはなにより!楽しむ事が一番大事だからね。…ではまた明日。気を付けて帰ってね。」


研修生である私はこの時間までしか現場にいることが出来ないけれど、スタッフさんはまだまだ上がれないらしい。


「あれ、華咲さんも上がり?」

「つ、月皇さん!」


スタジオを出てロビーに入るとバッタリ遥斗さんと遭遇する。
彼も私と同様にカバンを持っていて、どうやら上がりらしい。
俺も残りたいんだけどお前は休むのも仕事のうちだ!って言われるんだよね…と遥斗さんは笑った。彼が華桜会主席で人望も厚かったもの頷ける。
なにより月皇海斗君が尊敬している人だ。


「今日の撮影、とても勉強になりました。ありがとうございました!」

「いえいえ、それよりも凄い集中力で驚かされたよ。…俺はこの撮影今日で終わりだから華咲さんとは最後だね。お疲れ様。」

「そうだったんですね!お疲れ様でした。またいつか月皇さんの演技を間近で見れたらと思っています!」

「きっとその内会うさ。」


遥斗さんはまた笑う。演技の時もそうだけど、ポンポン表情が出てくる人だなと思った。この切り替えが役者として大切なんだろうな…。


「なんなら海斗とミュージカルを観においでよ。」

「本当ですか…?もし機会があれば、是非!」

「丁度次の公演はデートにはもってこいだからさ。」


そういう遥斗さんに「そ、そんなんじゃないです…!」と必死にアピールするも、彼は表情を崩すことは無い。


「じゃあ海斗じゃなくても、気になる人とおいでよ。」

「そういう人も、いないんです。」


俯き気味にそう言う私に遥斗さんは「青春はあっという間に終わるからなあ」と呟く。


「俺が学生の頃は良く気になる子とミュージカルを見に行ってたなあ。」


遥斗さんは懐かしそうにそう言った。







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