色々あった合宿が終わった。

バスに乗り込むと一斉に聞こえる皆のゆったりとした寝息がこの1週間の疲れを表しているかの様だと思えた。

微笑ましく彼等を見守る鳳先輩を横目に、私は昨日の星谷君の告白を思い出しては眠れずにいた。



「華咲は寝ないのか?」

「何だか眠れないんです。」


そうか、と優しく呟く鳳先輩。
彼には聞きたい事が沢山あるのだけれども、切り出し方もタイミングも私は知らない。
手荷物のスマホへ視線を落とし、何をするわけでもなく時が流れるのを待った。


不意に誰かの寝言が聞こえてふと顔を上げ声の発信源を見つめると幸せそうな顔でもぞもぞ体制を整えている星谷君が目に写った。

今朝も変わらず笑顔で挨拶してくれた彼は昨日のことなんてきっと気にしていないのだろう。
それに引き換えて私は昨日から、いやこの合宿が始まる前から那雪君には平気とは言ったけれど気にしてばかりだ。
はーっと小さな溜息をはく。

「溜息なんて履いて、何かまた気になることでもあるのかい。」

無意識だったのだろう。鳳先輩に言われるまで私は自分が溜息を吐いたことにすら気が付かなかった。


「先輩…。」

「ま、大体想像は付くけれどね。」


肩をすくめて微笑する先輩を見て少し心が軽くなった気がした。


「私、このままだと皆の足で纏いかもしれません。」

「おや、珍しくネガティブじゃないか。」

「かと言ってこのまま逃げるわけには行かない。私は皆と肩を並べたいです。」

「じゃあお前は何故向き合わない。」

「私は…恋は役者の卵である皆に取って不必要だと認識しています。」


下を向いてぐっと膝に置いた両手に力を込める。
色々な思いがグルグルしていて全ての気持ちを言葉にすることは今の私には出来ない。精一杯絞り出した言葉がそれだった。


「それを決めるのはお前じゃないよ。」

「はい。これはあくまでも個人的な意見に過ぎません。皆はそうは捉えていないかもしれない。」

「それをハッキリさせるためにも向き合うべきだと俺は思うよ。」

「それと向き合う心の余裕が。…今はなくて。」



ポツリと私が呟くと、先輩の返事はそこで途絶えた。
不思議に思って顔を上げると、そこには何か言いたげな切ない表情をした鳳先輩がこちらを見据えていた。

目が合うと先輩は何を言うわけでもなく私の頭を自身の手で優しく撫でる。




それから皆が順に起きるまで私達が言葉を交わすことはなかった。




「長い合宿お疲れ様。これからは綾薙祭の事を意識した稽古中心になる。皆確り睡眠をとって合宿での疲れを落とすように。では解散。」

「「「お疲れ様でした!!」」」


大きな挨拶と共に皆は一斉に解散し寮へ入っていく。
星谷君達に手を振られて女子寮の方へ振り返ろうとすると、静かな声で引き止められる。


「華咲。」

「月皇君?」

「明後日から研修なんだろう。鳳先輩も言っていたが、疲れを残さないように確り休むんだぞ。」

「ありがとう。3日間だけど色々学んで来るから、期待しててよね。」


ああ、と微笑む月皇君につられて微笑む。


「落ち着いていつも通りやるんだぞ。お前の技術はきっと業界でも充分通用する。頑張れ。」


過去に球技大会の時に頑張れと言われた時、彼は酷く照れていたのをまだ覚えている。
サラリと今の応援の言葉が出たあたり彼の成長が見て取れる。
こころなしかあの時よりも私達の心の距離も近くなったきがする。


「ありがとう!」


月皇君の成長をひしひしと感じつつも私は自分の力を信じてくれている月皇君へ精一杯の笑顔を見せた。

今度は私が頑張る番だから。

















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