「お、那雪と線香花火やってたのか。」

「もう最後のやつは終わっちゃったよ。」


ええ、俺も線香花火やりたかったなあと言う星谷君。
「あっちで辰己君達がやってるみたいだから、貰ってこようか?」

そう言って立ち上がろうとした私の体は星谷君に手首を掴まれる形で阻止されてしまった。


「行かないで。」

「星谷君。」

「線香花火が目当てじゃ、ないんだ。」

「…。」


星谷君の隣に座り込むと暫くお互い、何か言葉を発することなく遠くで光る花火を見つめていた。



「何か久々に話した気がする。」

「そうだね、毎日会ってるのにね。」


言われてみればこうして2人きりで星谷君と会話をするのは久しぶりかもしれない。
星谷君の気持ちに気付いた途端、お互いがお互いを無意識に避けていたのだろうか。


「なあ」「ねえ」

「…そっちから言って。」


言葉が被さると星谷君は苦笑いしながらこちらを向いた。



「合宿、お疲れ様。星谷君ホントに上達したよ。勿論他のみんなも。」

「ホントに?」

「本当だって。今日の合わせもすごく良かった。私も負けてられない!って思ったなあ。」

「俺も!これからどんどん上手くなって、いつかあの高校生見たいになりたいんだ…。」


あの高校生、と言うのは星谷君が音楽の道を目指してこの綾薙学園に入るキッカケとなった人物で、らしい。
ああ、なんて眩しいのだろう。

憧れの高校生について語る星谷君はとても眩しく純粋だ。


「でもまずは皆と肩を並べる事だよな。俺はまだまだヘタクソだから。」


あはは…と頭に手を当て苦笑いを浮かべる星谷君に私は首をふるふるとゆっくり横に振る。
彼は未だ慢心せずに自分の弱味を理解している。
先程までイメージしていた未来への不安は、向上心の塊のような彼に魅せられ、どんどん緩まってゆく。


「もうヘタクソから言い方を変えないと。星谷君には伸びしろしかないんだからさ。基本は大体マスターしたんだし、これからは星谷君らしい踊りや演技に磨きを掛けたらいいと思う。憧れの高校生を目指すのも良いけどね。」

「俺らしい…か。」

「うん。バラバラな個性が輝いてこそのteam鳳でしょ?」



そう私が呟くと、一瞬星谷君は黙って、暫く間を置いてから思い出したかのように笑い始めた。


「あははは。」

「そんなに笑わなくても…。」


笑い過ぎて目尻に涙を浮かべる星谷君は「はーー」と落ち着かせるように息を吐きながら涙を拭い、真っ直ぐ私を見据える。



「ほんとに、いつも俺の欲しい言葉をくれるんだよな。俺…やっぱりあやめが好きだ。」


「……あっ。」



星谷君は照れ笑いをしながらもその視線は私を真っ直ぐ射抜く。
何気なく混ぜられた言葉に気付く私は暫く考えが止まる。
好きだというその一言に徐々に頬に熱が集まるのが分かった。心臓も自然と速い鼓動を刻む。


少し離れた先で散る色鮮やかな花火を遠目に私たちは暗闇の中暫くの間、見つめ合って黙り込んでいた。



「返事、いつでもいい。いつまでも待つから。」

「星谷君…。」


じり、と1歩私の方へと踏み出す星谷君は、ほんの一瞬、顔を近づけ私の額に口付けると、そのまま小走りに花火の明かりの方へと戻って行った。

口付けられた額はじんわりと暖かい。














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