「お疲れ様です、お先に失礼します!」
「お疲れ、気を付けて帰れよ。」
「空閑君お疲れ様。」


バイトを始めてから数日が経過し段々とフロアのウエイトレスも板についてきた。どうやら空閑君はいつも遅くまで働いているようだ。…と言っても高校生だと働ける時間に限度はあるのだが。

帰って課題を進めていかなければ…と歩いていると私の足はある場所で止まった。友人が噂していた公園だ。確かに噂通り声が聴こえてくるが、良く耳を澄ませるとそれは歌声の様に聴こえた。
ちょっとした好奇心で公園へと足を踏み入れるとそこにいたのはジャージ姿の男の子だった。
集中しているのだろう。彼は近付く私には全然気付かない。


「いまぼくはーー旅に出るーー」


彼が口ずさむ歌は聞き覚えのある歌だった。何処で聞いた曲だっけと思考を巡らせると答えは簡単に出てきた。
今日授業で聴いたばかりの歌ではないか。
アヤナギ・ショウ・タイム。ミュージカル学科1年生の新人お披露目公演の課題曲である。

「千年にー1度だけーー咲く」

「「神秘ーのはなーー」」


気付けば彼の歌声に同調する様に私は口ずさんでいた。
それには流石に気付いたのか彼の動きは止まった。


「えっと…誰?」
「通りすがりの舞台照明です。」


私の変な自己紹介に彼は首をかしげてはてなマークを浮かべている。
先程の踊っている時の真剣な表情とは全然違った表情に物凄くギャップを感じて、少し笑ってしまう。


「ごめんね、急に。あの、アヤナギ・ショウ・タイムってことはミュージカル学科の1年生の人だよね。私、綾薙学園舞台設備専攻なの。」
「君も綾薙学園の生徒?…でも何でお披露目公演の曲事知ってるんだ?」

引き続き疑問を投げ掛けられると、私は舞台設備専攻の課題についての説明をした。


「綾薙学園は基本的に生徒でやれる事はやっちゃう学校だからね。」
「そうだったのか!知らなかった…!」
「そこで私は舞台照明担当ってわけ。君の班の担当も私になると思うよ。えっと…。」
「ごめん、自己紹介まだだったよね、俺は星谷悠太。」
「私は華咲あやめ。星谷君はいつも此処で練習を?」
「うん。俺、みんなと比べてまだまだ下手くそでさ。練習して早く追いつかなきゃ。」


そう言った星谷君はステップを踏み、華麗なターンを決める…筈だったが…。


「はあ、また失敗か…。」
「身体の軸がずれてるんだと思うよ。もっと肩の力抜いてみたらいいと思う。」
「もしかして、華咲ってダンスできる人?」
「昔、近所に住んでたお兄さんに教えて貰ってた位だけどね。でも綾薙学園は音楽が好きだから入ったんだよ。」
「俺も!音楽大好きなんだ!」


よっぽど音楽が好きなのか、星谷君は頬を赤らめてそう言った。不覚にも私はそんな顔で大好きと言われながら見つめられてしまった事に少しドキッとしてしまった。
こういう事を無自覚でやってくる人はこれだから怖い。
さらには顔赤いよ、大丈夫?と心配されてしまった。


「だ、大丈夫…!それじゃ、そろそろ私帰るね。」
「おう!アドバイス、ありがとな!」
「邪魔じゃなかったら、その…また来ていいかな。」


少し照れながら私が呟くと星谷君は満面の笑みを浮かべて元気よく返事してくれた。


「また来て!待ってる。」


ひとつ、バイト帰りの楽しみが出来た。






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