「華咲、今の所をもう一度頼む。」

「はい。」

「うん。だんだんと合ってきてる。」

「そうですね。息ぴったりだ。」


合宿最終日。今日は最終日という事もあり、課題曲の合わせを入念に行っている。
難易度の高いステップやリズムを組み合わせたこの曲、初日は皆バラバラで何一つミュージカルとして成り立っていなかったけれど、今日の彼らはみちがえるほどに成長している。



「皆でご飯作ったり、風呂に入ったり、色々な話をして相手を知り、呼吸を合わせる…それが大きかったのかもね。」

「そうですね。それに、皆何をするのも楽しそうでした。…男の子って良いな…。」

「あいつらはただのミュージカルバカだよ。だからこそ、通じ合える。…お前だってそうだろう、華咲。」

「そう、ですかね。…そうだといいな。」


鳳先輩の横で彼等を見つめる。
合宿に誘われた時も確かこうやって鳳先輩の横で見てたな。彼等のミュージカルを。



「お前は、もっと今を見ても良いと思う。」

「今…?」

「そう。お前はまだ高校生なんだからさ。もっと自由にすればいい。」

「自由に…。」

「お前は、自分で自分を縛っているようにしか見えない。」



それは、この気持ちと向き合えという事なのだろうか。
鳳先輩が…樹君がどこまで知っているかは知らない。
だけど、彼の目に、今の私はそんなにも苦しそうに映っているのだろうか。






「よし、これで合宿での稽古は終わり。皆お疲れ様。」

「「鳳先輩、ありがとうございました!!」」


皆に合わせて私も深く頭を下げる。
後はご飯を食べてお風呂に入って寝れば、明日の朝にここを発つだけとなる。
少しだけ寂しいけれど合宿が終わるといよいよ私は業界への研修が始まる。正念場だ。

みんな終わった終わったー、お腹空いた…等と思い思いの言葉を呟いていると、散らばっていく皆を呼び止めるかのように鳳先輩が口を開いた。


「ところでさあ、ボーイズ?」

「何ですか?先輩。」

「こんなのがあるんだけど。」


ガサッと鳳先輩が何処からか取り出した袋の中には色とりどりの花火が入っていた。


「わああ!」

「花火だ…!」

「さあ、早くご飯食べたら、あっちのチームと仲良くね。」



お屋敷の外で小さな花火大会が開かれる事になった。



「花火だーー!!」

「もう戌峰君!花振り回すの禁止!!」

「こら星谷!花火をこっちに向けるな!」

「くらえ天花寺!!」


みんな思い思いに好きな花火に火を付けては笑い合った。街灯もない山の奥は星明かり以外は本当に真っ暗で、花火の光がより一層綺麗に見える。


「わあ、その線香花火すごく綺麗だね。」

「うん。那雪君もほら。」


1本那雪君に花火を手渡すと近場の蝋燭で火をつける。
静かにパチパチと揺れる線香花火は美しくそして儚い。


「華咲さん、凄く上手だね…僕はほら、すぐに落ちちゃう。」

「手を伸ばすんじゃなくて、こうして膝に手を乗せると安定するよ。」


わあ、ありがとう、と頬を赤くする那雪君と笑い合うと、まるで子供の頃に戻ったような感覚に陥る。


「合宿、楽しかったね。」

「…色々あったけどね。」

「ああ…やっぱり?」


今度は二人して苦い顔をすると元気に花火を振り回している星谷君達を見つめた。


「正直、想われる事って凄く嬉しい。ドキドキもするし。…でも、怖いよ。」

「…皆がミュージカルに集中出来なくなるかもって事だよね。」

「うん、恋は盲目って言うしね。…冗談じゃないからね、本気で。」


はらりと線香花火の火種が落ちると共に、私達は自然と黙り込む。


「…僕はね、女の子を本気で好きになった事がまだないけど、それは違うと思う。」


ぽつりと那雪君はまた新しい花火に火をつけると話し始める。


「だって、僕はミュージカルが大好きだから。好きな事は一生懸命頑張りたいし、好きな人に僕の頑張りを見て欲しい。それにね、その人が応援してくれるなら、その人の為に頑張れるって僕は思う。」


「も、もしもだよ?私とミュージカルどっちが大事なのー!ってなったら…。」

「華咲さんはそんな事言わないでしょ。」

「…言わないね、きっと。」

「それに、星谷君達のミュージカルへ対する想いが薄れるなんてことは無いよ。」


那雪君に真っ直ぐ目を射抜かれるように見詰められて何も言い返すことが出来ない。

そんな事は分かりきっている。しかし、どうしても不安な気持ちが心を押し寄せてくる。


「たまには、甘えてもいいんじゃないかな。」


最後の線香花火が消えるのをゆっくり見届けると立ち上がった。
那雪君はそのままニコッと笑って視線を他に移した。私もつられてその方向へ視線を移すと、こちらへ歩み寄る星谷君の姿が。


「外すね。」
こそりと呟いた那雪君は、星谷君がこちらに方頃には、もう隣にはいなかった。












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