クリスマス
「…結局クリスマスが稽古で終わってしまった…。」
「もうすぐ公演会だもん、仕方が無いよ。」
稽古終わり、チーム鳳のメンバーが制服に着替えをしていると星谷はぽつりと洩らした。
再来週に推薦を受け公演会を控えたチーム鳳のメンバーはクリスマスだろうが、お正月だろうが稽古に励んでいる。
推薦を受けたのはチーム鳳のみ、他のチームは今頃楽しいクリスマスを過ごしているかもしれない。
そう思うと星谷達は溜息を吐くしかなかった。
「つーか、何で俺達だけ公演会に参加なんだよ。」
「月皇の兄貴からの推薦だ。こんなチャンスは滅多に無い。」
「遥斗さんに感謝しないとな。」
各自が本日2度目の溜息を吐き終えた後、機械音が稽古場に鳴り響く。静寂を破ったのは星谷の携帯だった。
どうやらメールらしく、差出人の名前は華咲あやめと表記されていた。
「華咲からだ…なになに」
「この後チーム柊の稽古場に全員大至急集合!!さもないと柊先輩のメガネが…!!…だって。」
「メガネが…!…なんだ?」
「来てからのお楽しみと言う事だろう。」
「何か隠しているのがバレバレだな。」
「でも、華咲さんが皆を呼び出す事なんて滅多に無いよね?」
「皆はやく行こう!!じゃないと柊先輩のメガネが…メガネが…!!」
「星谷君…間に受けてる…。」
走り出す星谷につられてやれやれとチーム鳳メンバーも目的地へと向かう。
ガチャ…
「柊先輩!!!」
「嫌だからあれは嘘で…」
「誰もいないじゃないか…。」
「…暗いね。」
指定された筈のチーム柊の稽古場。中には誰もおらず明かりは真っ暗だ。
メンバー一同が不思議に思っているとパッと1本のスポットライトが照らされた。ライトが照らす先にはチーム柊の辰己の姿が映る。
「チーム鳳、ようこそ、チーム柊の稽古場へ…!」
辰己が話終えるとスポットライトが1本、また1本と増えてゆき、チーム柊の面々が順に登場する。
チーム鳳メンバーが突然の事に呆気に取られているとライトに照らされた5人は声を揃えて言う。
「「「Merry Christmas!!!」」」
その流れでチーム柊の歌声と共に賑やかなBGMがなり始めカラフルなライトが着いては消え、着いては消えを繰り返す。
その照明を誰が動かしているのかなんて一目瞭然だろう。
最初は呆気に取られていた星谷達もチーム柊の歌とダンスに段々とまるでミュージカルの観劇に来たかのような感覚に陥る。
歌が終わり音楽も鳴り止み、パッと部屋の明かりがつくと、星谷達の目の前には沢山の料理とケーキやお菓子が視界いっぱいに広がった。
チーム柊の他には呼び出した張本人であるあやめや演出班のメンバーが勢揃いしている。
「これ、どういう状態…?」
「驚かせてごめん。稽古頑張ってるみんなに私達からのプレゼント。」
どうやらここ最近公演会に向けて梱を詰めすぎているチーム鳳に何かしてやれないかと演出班が話し合った結果、それを聞きつけたチーム柊とクリスマスパーティーを開こうという結果に落ち着いたのだった。
「俺達のレビューは楽しんで貰えた?」
「もちろんだよ辰己!最高だった!」
「まあ悪かねぇな…」
「素直に良かったって言えばーー。」
「卯川挑発すんなって。」
会話も一通り落ち着いた所で演出班のメンバーの1人がこほん、と咳払いをするとパーティーの説明に至った。
「企画発案は我々演出班が、曲の用意やダンスと歌はチーム柊、演出もろもろは演出班、料理は辰己、申渡が用意。ケーキやお菓子は華咲を筆頭に全員で作りました。それでは一同…」
乾杯!と彼が音頭を取ると全員もまた一斉に手に持ったグラスを掲げて声を上げる。
「「「乾杯!」」」
それから全員で料理を食べたり、ゲームをしたり歌ったりして、まるで稽古の疲れを忘れたかのようにチーム鳳はパーティーを楽しんだ。
「今日はホントにありがとう!楽しかった!」
「楽しんでもらえてよかった。稽古頑張ってる皆を見てるといても立ってもいられなくてさ。」
「華咲らしいな。」
パーティーが終わるとチーム柊や演出班と別れチーム鳳はあやめと共に帰路へついた。
「皆って、何だかクリスマスツリーみたい。」
「なんだよ華咲、唐突に。」
全員が不思議そうにあやめを見つめる中、あやめは口を開いた。
「ツリーに使われるモミの木は強い生命力があるから永遠の意味があるらしいんだ。」
途中の大通りに飾られた大きなツリーを眺めながら、続ける。
「それで、あのイルミネーションはきらきら輝く星に感動した昔の人が皆にその美しさを伝えたくて沢山の明かりをツリーに灯したのが始まりなんだって。それってさ、永遠にきらきらしてるって事だよね。…なんか皆みたいじゃん。」
あやめは照れ臭そうに笑うと「てっぺんに星、付いてるし。」と星を指さした。
「ざっくり纏めたな。」
「でも、華咲さんの例え、素敵だね。」
「まあ元々歌舞伎界のスターである俺様には相応しい例えかもな。」
「別に天花寺君とは言ってない。」
「はあ!?」
「1人じゃ駄目だよ。個性豊かで皆それぞれ違うし欠点はあるけれど、それをお互いに助け合ってカバーしあえる。それぞれが好き勝手に輝いて一つにまとまって、永遠にきらきら輝く。…皆はそんなクリスマスツリーかな。」
「…確かに俺達みたいかもな。」
「私はそんな皆の輝きを沢山の人に見てもらえるような演出が出来るように、これからも皆と、皆の側で頑張りたい。」
「華咲…。」
あやめはツリーから皆へ視線を映すと真剣な表情を浮かべる。
「心配しなくとも、当たり前だ。この野暮助が。」
「野暮助は余計だよ、天花寺君。」
「むしろ華咲にはいつも感謝してる。」
「私もだよ空閑君。」
「技術もそうだが、華咲がいる事が俺達の心の支えになっているのも事実だ。」
「月皇君…!」
「いつも僕達の事をすごく真剣に考えてくれるし。」
「それは那雪君もだよ。」
「じゃあ、そんな華咲に俺達からプレゼント。」
星谷がそう言うと彼は唐突にメロディを口ずさむ。
それに合わせるかのように遅れて他のメンバーも歌い始める。
外だから音源も伴奏も何もなくて、それぞれが思い思いに身体を動かしたり、最初はバラバラな歌声も段々と寄り添って混ざり合い一つのダンスと音楽になる。
街を歩いていた人々もつい足を止めてチーム鳳の歌に耳を傾け、ダンスに見とれる。
これだ、これなんだ。チーム鳳からのクリスマスプレゼントはあやめの大好きな皆の舞台だった。
歌が終わると周りからはとめどない拍手。皆集中していたのか周りに人が集まっていたことに気付かなかったらしい。全員が呆然と立ち尽くし那雪に至っては顔が青ざめていたが、皆の表情は徐々に笑顔になっていく。
輝くツリーの前のステージで、きらきらしている彼らは1歩踏み出すと、大声で叫ぶ。
《Merry Christmas!!》
← →
back