洗濯機で朝回した洗濯物はそろそろ洗濯し終わる頃だろうか。
カゴを片手に洗濯機の方へ向かうと先に先客が来ていた。



「月皇君。」

「風邪はもう大丈夫なのか?」


月皇君からの問いかけに頷くと安心した様に彼は微笑んでくれる。



「あ、洗濯物…ごめんね月皇君。後は私がやるから…。」

「一人じゃ大変だろう。俺もやる。」


えー、いいのに…と遠慮するも彼は引かない。観念して月皇君に洗濯物を手伝ってもらう事にした。


「ありがとう、助かるよ。」


何だかんだ彼は心配性だ。
カゴいっぱいの洗濯物を両手に抱えた私と月皇君は外へ出ると洗濯物を干し始める。

2人でポツポツと話しながら洗濯物を干しているとふらりと天花寺君がこちらにやって来た。
彼は何か言いたげな顔をしてこちらを見ている。



「何だ、天花寺。」

「おい。…その。」

「何?天花寺君。」

「…う。」

「??」

「…手伝う。」



そんな天花寺君の一言に私と月皇君は目を合わせると一瞬押し黙る。


「「え!?」」

「何だよ俺が手伝うのがそんなに意外かよ!!」


怒りながらも照れている天花寺君に私も月皇君も呆然と立ち尽くすしか無かった。
今日は雪でも降るかもしれない。



「月皇、星谷が踊りで合わせたい所があるそうだ、行ってやれ。」

「あ、ああ。すまない…。」


月皇君はそう言うと洗濯物を天花寺君に預けてこの場所を後にした。
なので今は私と天花寺君の2人きりと言う事になる。



「…!天花寺君…」

「あ?」

「…洗濯物、出来るんだ…。」

「だからお前は俺を何だと思ってるんだ!」



手際が良いとは言えないが難なく洗濯物を干す天花寺君に私は再度言葉を失った。
「天然記念物。」とボソリと呟くと大きな手のひらが飛んできたのでさらりと交わす。もうその攻撃は喰らわない。


「でもありがと。助かるよ。」

「お、おう。そうかよ…。」


にこっと微笑みかけると天花寺君は一層顔を赤くする。
普段、ツンケンしている彼は歌舞伎の事以外で褒められたりお礼を言われたりする事がきっと少ないのだろう。
でも、それにしても彼は初めてあった頃から比べると本当に柔らかくなったと思う。
以前の天花寺君なら星谷君の為に月皇君を呼びに来たり、こんな風に仕事を手伝ったりしなかったと思う。


「そう言えば天花寺君てさ、猫飼ってるんだよね。」

「天使の事か。」

「(天使…?)私動物好きなんだよね。今度見に行ってもいい?」


以前は入るのを躊躇っていた男子寮だが、前に無理矢理連れ込まれたこともあり、もう入る事になんの抵抗も感じなくなってしまった。本当はダメなんだろうけれども…

前に行った時は会えなかったけれど、天花寺君は寮の部屋に内緒で猫を飼っているらしい。
天使、と言うのはよく分からないけれど、多分その猫の事であっているだろう。


「別にいいが、絶対に危害を加えるんじゃねえぞ!」

「天花寺君私を何だと思ってるの…。」


…どうやら“危害を加えてはいけない”が見に行くのは良いらしい。
よっぽど飼ってる猫が大事なんだな、と思うと思わず口元が緩んでしまう。
あまり猫にデレデレな天花寺君は想像がつかない。


「何笑ってんだよ!この…」

「わっ!もう、天花寺君…髪の毛ぐしゃぐしゃ…」

天花寺君にガシガシと乱された私の髪型をみて天花寺君は満足そうに笑った。
そんな年相応な天花寺君につられて思わず私も笑ってしまう。


「天花寺君、ホントによく笑うようになったね。」

「はあ?」

「出会った頃はもっとツンツンしてたよね。今の方がいいよ。私は好きかな。」

そう言って笑ってみせると先程より顔を真っ赤にした天花寺君の姿が。


「なっ…!!好きとか簡単に言うんじゃねえよ!」

「あれーもしかして天花寺君照れてる?」

「黙れ野暮助!」


「華咲さん。あんまり天花寺君をからかわないの。」

「あ、那雪君。」


踊りの合わせが終わったのか月皇君と那雪君がゾロゾロとこちらへやって来る。
那雪君は顔を真っ赤にして固まっている天花寺君が手荷物洗濯物をサラッと奪うと慣れた手つきで干し始める。


「これ早く終わらせて、お昼の準備しないとね。」

「うわ、もうそんな時間?この服で最後だから…3人とも、ありがとう。」

「当然のことをしたまでだ。」

「この俺様が手伝ったんだ。これで貸一つだな。」

「はいはい。じゃあ昼食は天花寺君の好きなものにしようかな、ね、那雪君。」

「そうだね。」


カラの洗濯カゴを片手に私達はその場を後にした。
天花寺君は大きな声で怒鳴ったり、口が悪かったりするけれどそれが彼の精一杯の照れ隠しなのだろう。

いつか素直に照れる天花寺君が見てみたいな…と私は秘かに微笑んだ。














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