……







「……さん。」



「…華咲さん。」



呼ばれた声にはっと気が付いた私は直ぐに飛び起きる。
山の上のとても涼しい気候な筈なのに私は汗をビッシリとかいてる。


「…やっと起きた。」

「那雪君…。」

「顔が赤いようだけど、大丈夫?」


起き上がってみたものの頭部の感覚は殆どなくフラフラしていて、体の節々は痛い。
体も熱い気がする。


「やっぱり、熱があるみたいだね。今日はゆっくり休んだ方がいいよ。」

「…熱。」

「もしかして、自分じゃ分からなかった? 」

「熱とか風邪とか、あんまり引いたことなくて…。」


そっか、熱だったんだ、と首を縦に振りながら答える。


「華咲さんは頑張りすぎるから、きっといい機会だよ。」

「ごめんね那雪君。私の仕事なのに。」

那雪君は優しく微笑むと、薬と冷えピタ持ってくるから、と部屋を出ていった。


那雪君が出て行って一人になると思い出すのは今日見た夢で…その夢は今まさに私が1番気にしていること何だと思った。

それと同時に分かりたくなかったことまで分かってしまって悔しさがこみ上げてくる。


薬と冷えピタと、ゼリーを1つ持ってきてくれた那雪君にお礼を言って彼に稽古へ向かうように促すと、私はゼリーと薬を平らげそのまま眠りへ落ちていった。






うっすらと目を開け少しずつ瞬きをすると、窓から溢れる光が差し込んでくる。ゆっくり上体を起こすと、那雪君が乗せてくれたであろう濡れタオルが頭から落下する。


「もう大丈夫なのかい?」

「お、鳳先輩…。」


ハッと声の下方向を見ると壁に寄り掛かって腕組みをしている鳳先輩がいた。


「ご迷惑おかけしました…。多分もう大丈夫です。」

「そう、なら良かった。」


でも、今日は1日安静ねと鳳先輩に言われて、しぶしぶベッドから這い出ようとしていた身体を元に戻す。

熱は多分下がったけれども、ずっと寝ていたせいか、まだ頭が少しクラクラしている。


「折角誘って頂いたのに本当にすみません…。」

「迷惑だなんて思ってないよ。…俺も柊も。」


と言って私へ背を向けた鳳先輩には、言いたい事が山ほどあった。
もし、本当にあの時の双子のお兄ちゃんが鳳先輩と柊先輩だとするならば。
何故、苗字が二人とも別なのか。何故、こんなにも二人は遠いのか。



「あの、先輩。」

「どうしたの?」


1度は口を開くも、やはり言いにくくてすぐ口を噤んでしまう。
言ったところで先輩は…樹君は私の事憶えているのだろうか。


「…何でもないです。すみません。」

ペコリと頭を下げたまま下を向く。
今言ったことろでどうなると言うんだ。
例によっては鳳先輩も柊先輩も困らせてしまうかも知れない。
頭を下げたまま先輩が部屋を出ていくのを待っていたけれども、聞こえたのはガチャリとドアの締まる音ではなく、コツコツとこちらへ近付いてくる先輩の靴の音だった。

やんわりと先輩に頭を撫でられて顔を上げると鳳先輩は「お大事に。」とただ一言呟いた。



「熱が下がったと言っても油断出来ないからね。絶対に安静にしておくんだよ。」

「…はい。」


「風邪なんてお前は引き慣れてないんだからさ。…あやめ。」


「…!」




呆然とする私を余所に先輩は部屋から出ていった。
自分は身体が丈夫な方だから小さい頃からあまり熱を出した経験が無い。

最後の言葉が意味するものは、間違いなく自分の事を忘れていないと言う事だった。
樹君は憶えていてくれた。
私の事を憶えていてくれた。

察しのいい先輩の事だから先程私が口を噤んだ時に何を言おうとしたか分かってしまったのだろう。

憶えていてくれた嬉しさと、今まで気付かないままだった申し訳なさ、二つが今私の心の中を占めていた。
では柊先輩は…翼君はどうなのだろうか。
私も察しは良いほうだ。先輩が私の名前や専攻を知っていたり目線を逸らされたりしたのは、もしかすると。




「忘れていない…から?」
















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