その音の鳴る長さからどうやら電話の様で、きっと私達が見当たらないから心配した誰かがかけてきたのだろうとスマホの入ったポケットに手を伸ばそうとするが、両手は卯川君によって拘束されているのでそれを取ることなく発信は途切れてしまう。


遂に雷の影響かこの食料庫にただ一つだけの照明もプツンと消えてしまい、何も見えない状態となる。
雷音と共に聞こえるのは卯川君の吐息と心臓の音だけ。

暗い部屋にこうも異性と密着してしまうと、その、意識しない訳にもいかず、言葉を発する事でその気を紛らわせようとした。
反対に卯川君は雷への恐怖からか、何も考えずに私にしがみついていると言う感じだろうか。


「卯川君さ、可愛いところあるんだね。」

「う、うるさい…!それ以上言うとホント怒るからね!」

「ごめんて。」


先程まで鳴っていた私のスマホは今は音一つ鳴らなくなってしまった。
多分残り少ない私のスマホの充電も、力尽きたんだと思う。





「…そうだ。歌おうか、卯川君。」

「は?」


困惑気味の卯川君に微笑むと私は卯川君も知っているであろうメロディを口ずさむ。
私が歌し始めて暫らくすると卯川君も徐々にこの空気に慣れたのか薄らと口ずさみ始める。




卯川君はチーム鳳の皆の事、口ではいつでも馬鹿にしてるけど多分それは照れ隠しなんだと思う。
新人お披露目公演の時も、先ほどのチーム鳳の稽古を見ている時も、いつだって卯川君は見ている時に嫌そうな顔なんてしていない。

みんなと同じ様に卯川君も本当に音楽が好きで星谷君達の事だって心では認めているんだと思う。
今だって、私の歌に合わせて歌う卯川君の横顔はとても気持ち良さそうに見える。


それと同じく、私も凄く気分がいい。
聞き慣れた卯川君が紡ぐ歌に音を乗せ重なる2人の歌声は次第にハーモニーとなる。
心が凄く軽い。音楽が好きだ。当たり前の想いが胸にスッと入り込んでくる。
私は音楽が、歌が好きだ。


自然と身体は離れ、お互いに肩を揺らしながら歌い始めると、どうだろうか。私も卯川君も雷の音なんて全く聞こえないくらい音に、音楽に夢中になっている。





ギィィ


暫く歌っていると、扉が開かれ星明かりが倉庫に差し込んで来る。
どちらともなく歌うことを辞め、ふと入口を見るとゾロゾロとチーム柊のメンバーが入ってくる。
探しに来てくれたのだろうか、皆少し息が上がっていた。



「たつみん…皆…。」

「卯川、心配させんなよ…ってあやめちゃんも!?どういう状況だよコレ。」

「戌峰君のスマホ探してて…雷止むまでこの中にいようかな…って。ね、卯川君。」

「う、うん。…あれ、雷は?」



私と卯川君が外が静かな事に気付き外へ出てみると、雷どころか、すっかり雨も上がっており、空には綺麗な月が出ている。

どうやら私達が歌っている間に止んだらしい。
私達は2人顔を見合わせると私は思わず笑ってしまう。それにつられるかのように、卯川君は照れ臭そうに笑った。




「一体、何がなんだか。」

「兎に角、2人が無事なら良かった。」

「さあ、ここは冷えます。部屋に戻りますよ。」

「 僕が一番乗りーー!」

「あっ!戌峰君!誰のせいでこんな事になったと…!!」



先程はどうなる事かと思ったが、皆の輪の中へ戻って何だかんだ楽しそうにしている卯川君を見て、私は1人安心していた。

スマホ探しは明日の明るいうちに、今度は戌峰君も引っ下げて再開しようと、私も皆の後を追ってゆっくりと部屋へと戻っていった。











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