次の日には、team鳳の合宿での稽古がスタートした。
取り敢えず皆が練習している最中、私は洗濯と昼食の準備に追われた。

その合間の少し空いた時間に機材を弄って私も練習したり、午後は仕事がないのでみんなに照明や音響を合わせて練習してもらったりと、収穫は沢山ある。かなり古い機材で心配だったけれど、動作も全く問題ない。
かなり充実した合宿だと思った。



「今のところ、もう1回合わせていい!?」

「ああ、何度でもやるぞ。」

「華咲、もう1回頼む。」

「了解。」


やはり現時点で1番実力が劣っている星谷君は必死な訳で…しかし、失敗しながらもその表情はどこか楽しそうだ。

星谷君は失敗する度成長していく。
そしてそんな彼を、いや、彼等を応援したいし、同じ舞台という場所で肩を並べ、対等でありたいと思っている。

音響を弄りながら彼等を見守っていると、いつの間にか後ろにはteam柊の面々が揃っていた。

彼等もまた真剣にteam鳳の練習を見ている。
辰己君は前に俺達の敵ではないと言っていたけれども、何だかんだで彼等はライバルとして意識しあっているのだと思うと胸が熱くなった。



「一時休憩〜!」

「私、ちょっと外すね。」



一旦稽古場を出て外へ。外の空気を吸い目を閉じると先程触れた装置の感触、浮かんだ照明デザインのイメージを頭に刻む様に深呼吸。

山の上だけあってそよ風が気持ちいい。目を閉じているとこのまま寝てしまいそうになる。

ストンとその場にあったベンチに座り込む。そのまま目を閉じていると隣に誰かが腰掛けるのが分かった。


「こんな所でお昼寝?」


ゆっくりと眼を開くと、そこには優しく微笑む辰己君の姿が。


「こうして目を閉じると、音楽のイメージがよく見えてくるから。」

「…あやめは本当に音楽好きなんだね。 」

「大好きだよ。」


静かにそう呟けば辰己君もゆっくりと目を閉じる。
目を閉じたまま、辰己君は話しはじめる。


「team鳳のアヤナギショウタイム、 本当に素晴らしかった。」

「技術は点でバラバラだけどね。」

「確かに付け焼刃なパフォーマンスではあったけれど…彼らには輝きがあった。」


パチリと目を開いた辰己君の視線はしっかりと私を捕らえる。
ああ、やっぱり彼はあんな事は言っていたけれどteam鳳をしっかりと認めていて、自分達の好敵手であって欲しいと、そう望んでいるんだ。



「彼等は本当に素敵だ。」

「そうだね、とっても素敵。…でもteam柊だって素敵。私が保証する…って私が保証しなくても大丈夫か。」

「あやめ。」


不意に名前を呼ばれる。俺はね、と彼は言葉を続けた。



「君にそこまで考えて貰える彼等が羨ましいよ。」

「辰己君…。」

「音楽に真っ直ぐな君すら惹き付けてしまう彼等が、羨ましくて仕方が無い。」


彼はそこまで言うとそっと両手を伸ばし私の両頬を包み込んだ。彼が次に何を言うのか、何を思っているのか、分かってしまう様で怖かった。




「これは単なる我が儘だけど、本音を言うと俺だけを応援していて欲しいんだ。俺は君が… 」



「…それ以上は言わないで。」


辰己君が言わんといていることが痛いほど伝わってくる。
出来ればそのまま気づかずに通り過ぎて欲しかった想い。私が何を言おうと今の彼には重荷にしか成り得ない想い。
彼にそういう風に想われて心は今こんなにも暖かいのに、私はそんな心を自ら必死に冷やそうとしている。



「ごめん、泣かせるつもりじゃなかったんだ。」


辰己君に頬を伝う冷たい物を拭われるとようやく自分が涙を流していたことに気が付く。


「辰己君が悪いわけじゃ…ないよ。」

「泣いてるあやめも可愛いけれど、俺は笑顔がみたいな。」

「そ、そういう事、言わないで。」



私の頭を優しく撫でる辰己君は「ほら、泣きやんだ 」と微笑む。
彼の言葉に思わず顔が赤くなってしまうのはもうしょうがないと言うしかない。


「言葉にするのが駄目なら、これくらいは許してくれないかな。 」

「なん…」



辰己君はそのまま顔を私に近付けると唇を額に寄せた。



「でもいつか、きっと。」


惚けている私に背を向け、ゆっくりと辰己君は屋敷へと戻っていった。
私は暫く動けずに、ただ1人ベンチに座り込んむ。
正しい選択をしたんだよ私は。と震える体を抱き締めながら、空を見上げた。
もう気づかない間に空には夕焼けがさしている。













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