そのまま昼食の時間という事で、私は那雪君と一緒に厨房で料理をする事となった。
本当は私がお手伝いという名目で付いてきた以上、私だけで作るべきなのだけれども、那雪君は笑って「もう料理は日課みたいなものだから」と手を貸してくれた。
彼はきっと良い旦那さんになると思う。


那雪君が鍋の蓋を開けいい匂いが広がると腹を空かしたほかのメンバーがゾロゾロとやって来る。


「あー、お腹空いた…。」
「星谷君、もう少しだけ待っててね。」
「てゆーか華咲って料理出来たんだ。」
「私料理ぐらい作れるよ。」

「あやめの手料理楽しみだね、栄吾。」
「ええ。」


そう期待されてしまうと口に合わなかった時の屈辱感が計り知れないので辞めて欲しい所だけれども、今日は何と言っても那雪大先生が一緒に作っているから味に問題は無い筈だ。


「みんなお皿出して運ぶの手伝ってー。」

料理を並べて食べ始めると流石か男子高校生。お皿の料理はあっという間に消え去ってしまった。



「悪いね、俺達の昼食まで。」
「口に合えば良かったけど。」
「僕は石ころ以外は食えるからね!」
「それ、褒め言葉じゃないんじゃない。」


戌峰君は何を食べても美味しいと言う事で良いのだろうか。先程の食品庫ではなんと大根を丸かじりしていたらしいので驚きだ。苦くなかったのだろうか。


「卯川君感想は?」
「まあ不味くは無いよ。」
「こら卯川。マジ美味かった。毎日作って欲しいくらいだぜあやめちゃん。」
「却下。」

「でも、いいのですか。私達の分も合宿中は作って頂けると言う事ですが…。」
「うん。気にしないで。好きでやってるだけだし。ね、那雪君。」
「うん。華咲さん本当に料理上手だしね。」


あはは、と照れながらも食べ終わった食器の後片付けを続ける。
どうやらチーム柊はこの後稽古らしいけれど、今日は自由行動のチーム鳳はこの後屋敷の掃除を続けるらしい。
私も昼食の片付けが終わると那雪君と一緒に皆との掃除に合流した。



「主寝室かあ…。」
「うわあ、俺達の部屋と全然違う…!」
「鳳先輩か柊先輩が使うんだろう。」
「見てみて!ベッドにあの有名なヒラヒラがついてるよ!」
「ほんとだ初めて見た…!」
「お姫様ベッド…!」
「いや、それは何か違うんじゃないか?使うのは先輩なんだし。」


私達は初めて見る部屋に思い思いのコメントをしながら興奮していると空閑君が突然棚の上の写真を手に取ると「なあ、これ…」とこちらへ呼びかける。

写真はどうやら柊家の家族写真のようで理事長の周りを囲むように数人が並んで写っていた。

「…やっぱり、そうだよね。」
「…華咲?」
「ああ、いや、何でもないの。」


写真に仲良く写っている2人の子供は、どう見たってこの間の私の家のビデオに写っている2人で間違いはなかった。

「これ、鳳先輩と柊先輩かなあ?」
「わあ、仲良さそう!」
「親戚同士だからな。」
「そうなの?」
「鳳家は柊家の分家筋なんだよ。」
「へえ…。」

親戚同士か…その言葉に胸が重くなる。





無事すべての部屋の掃除を終え、1階へと降りると丁度team柊の皆と出くわした。今まで稽古をしていたのだろうか。

「うわあチーム鳳。ほんとに今まで掃除してたんだあ、ご苦労様。」
「テメーらの為にやってねーわ。」


わざとらしく言う卯川君に天花寺君が早速噛み付く。この2人の言い争いは始まるといつもなかなか終わらない。
煽り煽られ火のついた2人はたちまち取っ組み合いになる。取っ組み合いは構わないのだがその彼等の真横にはいかにも高そうな壺が置いてあるではないか。
2人からその壺を遠ざけるべく名乗り出た戌峰君と星谷君。嫌な予感しかしなかったがその予感は直ぐに的中。
今朝天花寺君が踏み外した床に二人仲良く足を引っ掛けるとそのまま転倒。そのまま壺は勢い良く落下し、粉々に砕け散ってしまった。

「こんな陳腐な結末があるとはな。」


欠片を手に取った申渡君の見立てでは、どうやら壺はドイツ製のブランド品。億はくだらないらしい。


「「億う!?」」

「その壺はチェーホフの銃だった訳か。」
「チェ…?」
「舞台の上に必然性のない小道具は存在しないという事だ。」


そしてあんな大きな音を立てたのだ。先輩方が気付かないわけがない。
取り敢えず隠せと!という決断に至り、星谷君と戌峰君は自分達の上着で割れた壺を隠したのだが、それで隠し通せるわけもなく、あっさりと割れた壺は発見されてしまった。

事情を説明しようと星谷君達が言い淀んでいると那雪君が突然わなわなと震えだして「クマがやりましたーーー!!」と叫んだ。
一同は那雪君の突然の発言に困惑気味だったが、取り敢えず話を合わせる為に一芝居うつことになった。


「それで、クマはどこに。」
「え、ええと…」
「「あっち!そう、あっち!」」

天花寺君卯川君、指す方向が見事にばらけてしまっている。

「ええと、急いでたみたいですぐ出ていっちゃいました…えーっと…」
「窓から。」

そう言って空閑君が指を指した窓は、開いてすらなく更には鍵まで締まっている始末だった。

そこでまた天花寺君と卯川君が口論になってしまうという最悪の事態、そして何故か歌い始める戌峰君。
辰己君曰く戌峰君が歌うことはteam柊にとっては日常的らしい。

「もういいです。とにかく危ないので破片を片付けてしまいなさい。」


「…ちょっと待った!」



柊先輩の一言で収集が付いたように思えたこの一件、どうやらまたまだ続きそうだ。















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