「那雪っ!!」

「星谷君!!」


目的地である星谷君達の元へたどり着くと星谷君達は食品庫の扉を一生懸命おさえていた。
一体中には何がいるというのだ。


「何事だっ!」

「く、く、クマが出た!!」
「何っ!?」
「どこにいる!!」


クマが出たと言い張る星谷君は扉を見つめてこの中に!と叫ぶ。
どうやら本当らしく、扉の中からは外に出ようと何かが扉にぶつかる音が聞こえてくる。
皆で扉を押さえるんだ!と全員が扉を押さえ始める。
オロオロしている那雪君の横で取り敢えず先輩に、とスマホを取り出していると、扉の正面ではなく、側面からドカンと大きな音が聞こえ、木の壁が崩れさる。
皆が息を飲み壁が崩れた方を見つめていると、土埃と共に現れたのは、クマではなく人影だった。




「あーびっくりしたー。たんこぶ出来たよーちょっと食べ物貰ってただけなのに。」

「え。」


しかもその人影は私達のよく知っている…


「あー!知ってる!team鳳の人達!」
「そういうお前は、確か…」
「そういう僕は、歌って踊る綾薙学園のニュースター、team柊戌峰誠士郎、です☆」


華麗に飛び上がりターンを決め着地したのは、どこからどう見ても戌峰君だった。
もう短時間に色々な事が起こり過ぎて脳の情報処理が追いついていない状況だ。
だけれども、戌峰君がここに来ていると言うことは…


「あー!たつみん、戌峰君いたよ!」
「まったく、目を離すとすぐ何処かへ行くんだから。」


「team柊…!?」

ぞろぞろと残りのteam柊のメンバーがやってくる。
彼等がここにきていると言うことは、多分こちらと同じ状況なのだろう。


「あーっ!みんな何時の間にはぐれたのー?気付いたら誰もいなくてびっくりしたはっ!?」
ガツンと戌峰君の頭に虎石君の投げた靴が炸裂する。

「それはこっちのセリフだ犬!」
「ちょー探したんだけど!」
「彼、ミュージカル以外はポンコツだから…。」

「…で、なんでteam鳳がいるわけ…ってあやめちゃんもいんじゃん!?」
「げ。」

もう手馴れた具合に空閑君が私を自分の背中へ隠すとまたまた冷静に一言言い放つ。


「状況は多分、お前らと同じだと思う。」


「「え?」」


予想はどうやら当っていたようで、team柊もここで合宿らしい。

「まさか、合宿所が被るなんて、あの2人、実は仲良し?」
「あんまり仲良くしてる所なんて見たことないけどな。」

皆で文句を垂れながら先輩達の所へ向かう中、私の横には辰己君が並んだ。


「それにしても、あやめがteam鳳の合宿に付いてきてるなんてね。」
「お手伝い兼、舞台機材を貸してもらうためだよ。辰己君。」


私と辰己君が会話を続けていると、急に前にいた星谷君が立ち止まってしまったのか、思いっ切り顔面を彼の背中にぶつけてしまった。
思わずよろけると側にいた辰己君に身体を支えられた。



「いま、辰己、あやめ、あやめって…」
「俺はあやめの事名前で呼んでるけど、何か変?」

そう言えば私もナチュラル過ぎて気付かなかったけれど、辰己君に名前で…。今まで名字呼びだったものだ急に変化が見られると気になってしまうと言うのは人間の性、なのかも知れないが、辰己君に支えられたまま急に星谷君に詰め寄られてしまってはその、いつもの事ながら心臓に悪い。


「いや、変じゃないんだけどさ…そっか、名前か…。」
「星谷君も華咲さんの事名前で呼びたいみたいだよ。」
「な、那雪!?」
「べ、別に良いけど…。」


思春期の男の子は女の子の名前一つ呼ぶのにとても勇気がいるものだ、と友人がある時私に急に語ってきた事があった。虎石君みたいな人は兎も角、確かに私も星谷君や辰己君のことを名前で呼ぶとなると相当の難関の様に感じる。
思春期の男女というものは実に難しい生き物なんだと身を持って実感する。

星谷君の気持ちを汲み、断る訳にはいかない。了承すると、早速星谷君は照れながらもありがとうと顔を赤くした。






鳳先輩が休むと言っていた広間へ辿り着くと、そこには柊先輩も揃っており、私達は揃って部屋に入ると挨拶をする。


「お邪魔しまーす。」
「失礼します。」

「これはこれは、何だか新鮮な光景だねえ。」

楽しそうに笑う鳳先輩の隣、柊先輩はteam鳳のメンバーを見渡すと、私がいる事に気付いたのか少々厳しい目線を鳳先輩へ向けた。


「何故彼女までここに…それに合宿へ女子生徒を同行させるなど…」
「彼女だから?それとも、女子生徒だから駄目なのかい?」
「それは…。」


そこまで言うと柊先輩は言葉に詰まる。
星谷君は一体何の話だ、と少し困惑するが、私には何となく何の話か分かってしまい、少し気まずさを感じてしまった。私はここへ来てもよかったのだろうか。

取り敢えず戌峰君の回収を命じられていたらしい彼等は先輩に戌峰君を差し出した。最早扱いが人間なのかどうか分からない。

取り敢えずまたどちらが合宿所を去るか口論になるが、鳳先輩の「どっちも出ていかなくていいのでは」という一言により、合宿は同じ場所で行われる事となった。


「旅は道連れ,世は情け。この機会にしっかり親睦を深めなよ、ボーイズ。」


「「ええ!?」」



騒がしい合宿の幕が開く。














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