来る夏休み、私は最初の数週間、お手伝いとしてteam鳳の合宿へ付いていくことになった。お手伝いと言っても、ただコキを使われるだけで終わる訳ではない。

合宿後には自分の業界研修を控えている。
そこで役に立つためにも、豊富な設備の揃っている合宿所で自分もスキルを磨くという訳だ。

朝早くバスに乗り込み、team鳳のメンバーは合宿所である柊家のお屋敷を目指すべく山の方へ向かっていた。

「みかん、食べる人ー!」
「欲しい!」
「鳳先輩に、華咲さん。どうぞ。」
「ありがとう那雪君。」

ローカルバスの後ろの方に私達は固まって座り、各々好きな様に過ごしている。私は最後尾席の端っこ、空閑君の隣に座っている。


「今、どの辺?」
「身を乗り出すな。酔っても知らないぞ。」
「俺車酔いしないもーん!」


「マジかよ、風呂の時間はたった30分!?俺は長風呂なんだ!」
「タイムスケジュールは仮だから…。」


天花寺君は無理矢理来ることになったのか、先程から不服そうだが、しっかりと那雪君お手製の合宿のしおりを読み込んでいる辺り、本心では楽しみなのだろう。


「飴いる人ー!」
「いる。」
「空閑君、好きなの取ってね。」
「空閑君私コーラ味。」
「華咲、お前は食べ過ぎだ。」


飴なんて食べ物のうちに入らないと言い返す私と空閑君を微笑ましそうに見ている鳳先輩。那雪君も前の席からこちらを見て微笑んでいる。
みんな楽しそうだ。


「もうすっかり山の中だな。」
「別荘地って感じだね!」


バスが走って暫く時間が経過するとバスはどんどん山の中へと入っていく。


「ふっ、ただの田舎だろ。言っとくけど、俺は来たくて来たわけじゃないからな!」


天花寺君は降車ボタンを急に連打し始める。何事かと思うと「添乗員呼ぶボタンじゃねぇのか…」と一言。彼の顔は至って本気である。
「普通のバスにそんなの付いてねえ。」と空閑君の冷静なツッコミがはいる。


「天花寺君…ぷ。」
「おい華咲、お前笑ってんじゃねえ!」

もう今更降りたところで天花寺君が下りのバスにきちんと乗って帰れる筈が無い。そう思うと余計面白くて1人でひーひー笑いを堪えると、酔っていると勘違いしたのか、その背中を空閑君が摩ってくれる。空閑君、有難いけど私酔ってるわけじゃないんです。


「…ったく、合宿なんざど素人だけで行けよ。」
「天花寺いないと寂しいじゃん。」
「えっ。」


「俺は別に寂しくない。」
「ああ!?」
「ところで天花寺。ずいぶん熱心に読み込んでいるじゃないか。」
「はああ?こ、これは…那雪が夜なべして作ったって言うから…」


やっぱり天花寺君も何だかんだで合宿が楽しみの様だ。
言い合う2人を見つめて「アレはあれでいいコンビか。」と空閑君は呟く。


「鳳先輩。合宿所は柊家の別荘なんですよね。」
「期待してもらっていいよ。何しろ天下の柊一族のお屋敷だからね。」


鳳先輩の言葉に全員が期待に胸を膨らませる。
きっとバスの行き着く先には物凄く綺麗な豪邸が待っているのだろう。そう思っていた…筈だった。







「お屋敷だけど…。」

全員が口をポカーンと開けてお屋敷を見つめている。確かにとても大きなお屋敷だ。お屋敷だけれども。

「すっごいボロ…。」
「さっ、ボーイズ、早くおいで。」


先輩に案内されて中へ入ると、外観はあの通りだが、中は凄く広いし綺麗だ…と思ったのだけれど。


バキッ

天花寺君が足を踏み出しただけで床が抜けてしまう程ガタがきているらしい。

「1階が広間と稽古場、2階が宿泊施設ね。好きな部屋を使っていいよ。」


早速稽古を…と月皇君が先輩に稽古場の場所を尋ねると、移動日で疲れが溜まっているだろうし、今日は昼食までは自由行動となった。



「なあ華咲、俺達と探検行かないか?」
「俺達って、他に誰が行くんだよ。」
「俺と那雪!あ、天花寺も一緒に行く?」
「俺はこんな山奥で外出はごめんだ。他を当たれ。」

そう言うと星谷君と那雪以外の3人は荷物を持って2階へと上がっていってしまう。


「華咲は?」
「うーん、ごめん、ちょっと私も確認したい事が…。」
「そっか、残念…。」
「用事が終わったらすぐ行くから。」
「本当に!?」


うん、と頷くと星谷君は嬉しそうに那雪君の手を引いて外へと出ていった。
私は空いている部屋に一旦荷物を置くとある場所を探す。
舞台機材のある部屋だ。

それらしき部屋を見つけて中へ入ると少し埃をかぶった照明機材や音響機材がそこにはたくさん置いてあった。
一応コードを繋ぎ、電源が入るか試すと、無事機材には電源が入った証拠であるランプが点いた。

取り敢えずほっと一安心して星谷君達に合流しようとお屋敷を出ようとすると、急に「ああああああああ」と言う物凄く間抜けな叫び声が耳に飛び込んできた。
いや、間抜けと言っている暇ではない。
恐らく星谷君と那雪君の悲鳴だ。
私は階段を駆け下りてきた天花寺君達と合流してそのまま声のする方へ走った。














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