「みんな…衣装なんだけど…。」


暫らくすると星谷君と空閑君は衣装の入った大きな箱を持ってきたのだが、星谷君はすごく落ち込んだ顔をしている。
どうしたんだと天花寺君が声を掛けると星谷君はため息混じりで箱を開けた。





「…っざっけんな!こんな衣装で舞台に上がるなんざ、真っ平御免だ!!」

蓋を開けて箱から取り出された衣装は、どれも破れかけていたり、黄ばんでいたりと、とても衣装と呼べるには乏しい服だった。
天花寺君の言う通り、この服を着てまでステージ立てる役者さんはそうそういないだろう。


「でも残ってた衣装これしかなくて…なあ、空閑。」
「申請するのを後回しにしていたからな。うちのリーダーは。」

空閑君の言葉に星谷君は苦い顔をする。
そう言えばついこの間このチームのリーダーは星谷君に決まったようだ。
確かにしっかりしているとは言い難いけれど彼には輝ける何かがある。
適任だと思ったし、皆で星谷君をリーダーに推したと聞いて、いよいよteam鳳もチームらしくなってきたと私は密かに思った。


「月皇…!」
「衣装は役者にとって体の一部。それをないがしろにされたら舞台は成り立たない。」
「くっ…那雪い!」
「これは…星谷君が悪いかも。」


那雪君ですら苦笑いを浮かべている始末である。


「だよな…華咲あのさ…。」
「言っておくけど、私裁縫は出来ないから。というか照明もあるのに無理だから。」
「う……ごめんみんな…。」


星谷君はガクッと下を向き完全にしょぼくれてしまっている。

「でも僕に任せて!」
「!」


そんな中、那雪君が顔を上げると「最終手段を使うから」と言い、どこかへ連絡を取り始めた。



直後。
バタンと大きな音を立てて稽古場の扉が開いた。
皆が一斉に扉を方へ顔を向けると、そこには瓜二つの女の子が二人立っていた。


「だ、誰!?」
「僕の妹。ゆうきとつむぎだよ。二人共ちょっと変わってるけど…。」


「聞いていた以上に酷いわね。」
「一目瞭然です。」


どうやら那雪君の妹さんは双子らしい。ゆうきちゃんはハキハキしていてしっかり者、つむぎちゃんはぽーっとしていてどちらかと言うと那雪君に似ていると思った。


「双子かあ…私知ってる人で双子なんて…」


双子、知り合いにいたっけ。そう思った瞬間、少し心の奥がもやっとした。
思い出せそうで思い出せない、何か大切な事を忘れているかのような。


「どうした?」
「ああ、うん、いや…そう言えば昔同じクラスにいたかも……って。」
「へえ、そうなのか!俺、双子なんて初めて見た!」


どうやら勢いのある二人に皆タジタジらしい。
月皇君も怯んでしまい、あの天花寺君が謝るほどだ。
二人は何処からともなくメジャーを引っ張り出すと、その一つを私に手渡した。


「あやめさんも採寸手伝ってください。」
「え?」
「相互扶助です。」
「ええ?」


「動くな!」
「不動です。」


採寸なんてやった事無いけれど二人の様子を見よう見真似で取り掛かった。


「あやめさん、私達お兄ちゃんの寸法は把握しているので、まず空閑さんをお願いします。」
「わかった。」

「空閑君、ほんとに身長高いよね…何センチ?」
「そうでもないだろ…確か、177。」
「私と約20センチ差…!」



そうこうしている間に二人は光の様な速さで採寸し終えると、ボロボロの衣装を持ち、颯爽と帰っていってしまった。
因みに私が空閑君の寸法を測り終える頃には他の全員測り終えていたので私の手伝いなんて、絶対にいらなかったと思う。

二人が帰っていった途端、まるで嵐が過ぎ去った後のように那雪君以外全員床へ座り込んだ。


「ほら、ご飯食べたら早く練習!私、作業に追われて暫く眠れない夜が続くんだから!」
「そうだね。まずはフォーメーションを確定させなきゃ、華咲さんも作業に取りかかれないよね。」
「腹減った…。那雪、今日の弁当何…?」
「今日はね…」
「ちょっと待った!」
「華咲さん?」


那雪君を制し、私は自分の荷物をガサゴソとあさり始めると大きな紙袋を取り出した。
皆の興味がその紙袋に集中する。


「こんな事になるなんて思わなかったから…はい、差し入れにクッキー焼いてきた。」
「クッキー!!しかも…華咲の手作り!?」
「美味しそう!」

「お前、料理出来たのか!」
「天花寺君失礼!」

みんなにクッキーを配るとみんなこれからお昼ご飯だと言うのに袋を早速開け始める。
天花寺君はこの間のハンバーガーの事もあり、食べないかなと思ったが、流石モテる男は女子からのプレゼントも多いらしい。何も言わずにクッキーを口に含んだ。


「甘いの嫌いじゃないといいけど。」
「めちゃくちゃ美味いよ!!ありがとう華咲!!」
「…良かった。」
「星型のクッキーなんだね。」
「スター枠だから。」

「…うまい。」
「うん、美味しいよ華咲さん!」

天花寺君は不器用ながら褒めてくれたり、料理が上手な那雪君も、月皇君も美味しいと言ってくれたり。
空閑君は黙々とクッキーを頬張っている。


「また作ってくれ。」
「お披露目公演が終わったらね。」


この星型のクッキーの様に、皆がずっとスター枠に残れますように。
自分に出来る精一杯の事をやろう。
皆が輝けるミュージカルスターになれるように…。













back
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -