鳳先輩に呼ばれて舞台設備専攻の演出班の皆と一緒にteam鳳の稽古場までやって来た。中へ入ると既にミーティングが始まっており、私達が到着したことに気付いた鳳先輩は私達やteam鳳の全員を見てこう言った。

「今日から一つアレンジを加えようと思う。」


アレンジ、という単語に私達の班はぴくっと反応する。
ま、まあアレンジと言っても少し演出が変化するだけだろう。…少しだけ。

「これが俺達の新しいアヤナギショウタイムだ。」

先輩はパソコン画面を開いて動画を再生させた。



……





動画を見た一同は唖然としている。


「すごい…なんか、上手く言えないけど面白いです!俺、これやりたい!」

星谷君は興奮気味にたちあがると、それに皆も続くように言葉を発する。


「まあ、悪くないぜ。」
「これまで以上に練習する必要があるな。」
「が、頑張ろう。」
「だな。」


しかし、私達演出班はそうはいかない。こちらはこちらで口々に言葉を発している。


「いやいや、マジかよ…」
「そんな急に言われても。」
「ちょっと待って。あと1週間でこれを…?」
「華咲さん達は、アレンジ反対?」
「嫌、そうじゃなくて寧ろいいなって思うし、大賛成だけど…!」


那雪君に首を傾げられるとどうにも後ろめたい気持ちになったが、そうは言ってられない。

曲調もテンポも今までとは違う。演出も今までとはまるっきり変わる事になる。私を含め班員全員は青ざめていた。


「急にアレンジと言い出して申し訳ない、だけど君達の協力が必要なんだ。頼めるかい。」
「そうは言われましても…。」
「この通りだ。」


鳳先輩が一歩前に出たと思うとこちらに向かって頭を下げる。
先輩が、あの華桜会の鳳先輩が頭を下げてまで私達を頼っている。
班員の1人が必死に頭を上げてくださいと説得するも鳳先輩は動かない。

遂には星谷君達、team鳳のメンバーもそれに加わる。…天花寺君は躊躇って入るが。



「どうする、華咲。急なアレンジはお前が1番キツイだろ。」

気遣って声を掛けてくれるチームメイト達。
確かに私の役回りが1番大変になるし、初舞台でかなり高度な事もしなければならない。
でも、星谷君達の真剣な目や、これをやりたいと言ったteam鳳の皆。頭を下げた先輩の想い。そして何より自由なワクワクする気持ちを表現したいと語った星谷君のそんなミュージカルを見てみたいと思った私自身。
ここで途絶えさせてしまって、果たしていいのだろうか。
これが私の目指した最高の演出なのだろうか。



「やる。…やってやる。」

私がそう呟くと頭を下げていた全員がはっとこちらを見た。


「…演者がやりたいって言ってるのに、私達が妥協するわけには行きませんから。」

班員の人達に目配せすると、ほかの皆も納得したのか、頷いてくれる。

「私の役目は主役を最高の形で輝かせる事ですから。」

「ありがとう。華咲。」
「先輩の気持ち、受取りました。私達に任せてください。」

鳳先輩はにっこり微笑むと、頼んだ。と私の肩をポンと叩いた。
…絶対に皆の気持ちに応えたい。


《team鳳の代表2名は、直ちに備品倉庫まで来てください。》

「あっ…!衣装の受け取りに行くんだった。」



取り敢えず星谷君と空閑君が衣装の受け取りに行くという事で一旦練習は午後まで中止となった。
私達の班はそれぞれ作業に取り掛かるため散り散りになる。
私は照明をどうするのかもう少しteam鳳の皆と話し合う事になり、そのまま稽古場にいることになった。



「それにしてもよ、演出班はそんなに大変なのか?」
「大変だよ。!今までと同じには行かないからね!でも安心して、来週までにはきっちり仕上げるから!」
「お、おう…。」

無意識だろうが煽ってきているとも取れる天花寺君の発言に少し食い気味に答える。

「華咲さん、なんだかやる気満々だね。」
「私は絶対にこの舞台を成功させたい…team鳳の皆がスター枠に残れるように。」
「俺達がスター枠に残るのは当たり前だ。」
「わっ…」


天花寺君はそう言うと私の頭をわしわしと力強く撫でた。
天花寺君が言う当たりどこと無く説得力がない気もしないでもないけれど、とても心強く感じた。












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