「…星谷君と喧嘩してさ。一発ぶん殴って来た。」
「星谷と…?って、ぶん殴ったって…」
「大丈夫、腫れない程度に加減したから。」
「顔を殴ったのか…。」


はあ、と月皇君は溜息を吐く。
星谷の頬よりお前の目が腫れそうだと指摘を受けて私は苦笑いをするしかなかった。


「雨も降ってきたし2人とも、こんな所にいたら風邪引くよ。」
「那雪君。」
「はい、氷嚢だよ。」


寮から出てきた那雪君は可愛らしいイルカ柄の氷嚢を私の瞼にそっと当てる。自分出来るよ、と氷嚢を持とうとするが、あっさり断られてしまう。


「那雪君、ありがとう。でもなんで…。」
「月皇君から氷嚢持ってきてくれって連絡貰ったからね。」
「…お前の目が腫れると、皆、特に星谷は気にするだろうからな。」


きっと彼が自分で取りにいかなかったのは先程落ち着くまで側にいてやると私に約束したからなんだろう。
自惚れつつも彼の律儀さと優しさに胸の奥が熱くなる。
那雪君も私が痛くないように優しく氷嚢を当ててくれる。
視線を少しずらすと那雪君の側には彼が持ってきた大量の氷嚢が見えた。
何だか過保護なお母さんみたいで私はつい笑ってしまった。


「あ、華咲さんが笑った!」
「2人のお陰ですごい元気出た。ありがとう。」
「華咲が元気なら…それでいい。」
「あれ、月皇君顔が真っ赤」
「うるさい!」




3人で暫く話をしながら待っていると遠くに星谷君と空閑君が歩いてくるのが分かった。

私は月皇君と那雪君の目を見て「頑張る。」と一言伝えると星谷君の方へと駆け出した。



星谷君!そう私が発するよりまず先に私は彼に腕を引かれ腕の中へ閉じ込められる。

雨の匂いと少しすっばい汗の匂いを感じてやっと、星谷君に抱きしめられているのが分かった。

星谷君に抱き締められながらちらっと隣の空閑君を見ると彼は無言で頷き、寮の方へと足を進める。



「華咲、ごめん。俺、ついカッとなって華咲に関係ないとか最低な事言った。」

「なんで星谷君が謝るの。私も星谷君が苦しんでるのに無神経な事言った。星谷君は必死に頑張っていたのに。」


それに顔を叩いちゃったし、と苦笑いする。
ぎこちない動作だったけれど、私も腕を星谷君の背中に回して抱き締め返すと少し彼の肩が揺れた。
まさか抱き締め返されるとは思ってなかったのだろう。



「星谷君が今何に悩んで何に苦しんでるのか、確かに私にはわからないけど、これだけは分かるよ。」


震える彼の身体を更に強く抱き締める。


「 大丈夫、焦らなくても星谷君は強い。皆知ってる…もちろん私だって。 」
「華咲…。」
「なんて、少し偉そうだったね。でも、仲直りしてくれると嬉しいな。」
「…うん、ありがとう華咲。」

星谷君は顔を上げてそう言うと、そっと身体を離した。
同じ歳の男の子に抱き締められている訳なのだけれど不思議と胸に溢れるのはドキドキではない、暖かい何か。
今の私達にはきっとそんな不純な下心はなくて、子供同士が仲直りした様なそんな心境なんだ、そう私は思う。

もしこれがお互いに下心のある行動なら今頃私は心臓が高鳴りすぎてぶっ倒れていたかもしれない。それくらい今日は色々な事があったのだから。


「二人共、仲直り出来てよかったね。」
「みんなありがとう。」
「お前らがギクシャクしてると見てるこっちが辛い。」
「星谷、お前は早くシャワーを浴びて来い。」

そうだよ、本当に風邪引いちゃう。と那雪君が星谷君を寮へ促す。寮へ帰っていく那雪君と星谷君に手を振る。


「私もそろそろ帰るね。」
「ああ、気を付けて帰れよ。」
「また明日な。」
「うん。おやすみ。」

空閑君、月皇君はそのまま動かない。きっと私が寮の扉をくぐるまで待つんだろう。いいから戻りなよ、と2人を無理矢理寮へ押し込め、2人を見送ると私も自分の寮へと足を進めた。


…もう新人お披露目公演がすぐそこまで迫ってきている。


















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