「そうかなあ…王様になったら何でも夢が叶いますよね?」
お披露目公演の課題曲であるアヤナギショウタイムの元になった物語を聞いて胸がもどかしい気分になった。
皆は口々につまらない話だと言う。
確かにそうかも知れないけれど…。
「じゃあ夢を叶えて恋人と結婚すればいいんじゃないかな。」
ふと星谷君が口にする。
「この歌もそういうワクワクする気持ちを歌ってたり…」
「星谷。…どこまで脳天気なんだ。」
「王様だからって何でも思い通りになる訳じゃない。」
「そうなのか?」
「権力を背負えば制約も増えるんだ。思い通りに行かない事の方が多いぜ。」
…確かにどちらかしか選ぶ事の出来ない問題に思い悩む物語ではあるが、星谷君のすごく自由な発想に私は言葉を失う。きっと彼自身が純粋で何にも囚われない考えの出来る人だからこそ、この悲しい物語を疑問に思えるのだと、そして素敵な考えだと私は少し星谷君を羨ましくおもった。
「いいんじゃない。…俺達は自由だ。…わくわくする気持ち。」
どうやら鳳先輩もそう思ったらしく、彼は優しく星谷君へ微笑んだ。
稽古が終わりそれぞれが帰路につく。空閑君は今日はこのままバイトなので残りのメンバーと寮まで一緒に帰ることとなった。
校門を出た途端天花寺君がしきりに辺りを気にし始め、内ポケットから取り出した眼鏡をかける。
「追っかけ対策の変装か?もてるアピールご苦労さま。」
「全然変装になってないけどね。」
伊達メガネはそう言う理由だったのか。
流石梨園の貴公子はモテるらしい。あまりに変化が見られず誰なのかバレバレ事に対してつっこむと無言で脳天へ手刀が振り落とされる。…いつか絶対反撃してやる…。
「いたっ!」
「モテない奴の僻みはみっともないぜ。俺様が紹介してやろうか…?」
「お前と違って暇じゃないんだよ。…遠慮しておく。 」
「月皇君もモテそうだけど…。」
2人を見ながらボソッと呟くと彼の顔はみるみる赤くなる。月皇君は意外と照れ屋なのかも知れない。
「なっ…!」
「月皇君、顔が真っ赤だよ。」
「それは!華咲が変な事を言うからだ…!」
「思った事を言っただけだって。性格は天花寺君より月皇君の方が全然良いっ…いたたたたた天花寺君いたい!」
「なんだと野暮助!」
唐突に後ろから天花寺君に顔を掴まれる。彼は自身の性格を気にしていたのだろうか。そして私は野暮な事を言ったのだろうか…。
頭を捕まれこめかみをグリグリされると力加減されていようと地味に痛い。
グーー
「あはは…ごめん。」
しんとその場が静まる。どうやら大きなお腹の音の正体は星谷君のようだ。何とかそれのお陰で天花寺君から逃げ出せた。
…というか天花寺君にはイマイチ女子としての扱いを受けないのは何故だろうか。
「夕食まで時間があるね。寄り道していかない?」
取り敢えず星谷くんの小腹を満たす為に私達はファストフード店へ入る事にした。
「いらっしゃいませ〜」
「えっと、ダブルバーガーセットのポテトLとオレンジジュースSで…」
「おい、夕食前にそんなに食べて大丈夫か?」
まずは星谷君が注文する。
「あ、私は同じセットのコーラSで。」
「華咲?お前も夕食あるんじゃないのか!?」
「「余裕!」」
「華咲さんて、凄く大食いなんだね…。」
「まあ胃袋はデカいほうかな。」
「俺や那雪よりデカいんじゃないか…?」
「月皇君失礼!!」
ふと星谷君がどういう事か先程から一言も口にしない天花寺君へ話しかける。天花寺君君はというとカウンターのメニュー表を真剣に見つめている。
「…どうしたんだ?天花寺。」
「何なんだ、このSとかМとかLとかって言うのは…暗号か?」
「え。」
「ぷ。」
天花寺君には悪いが思わず吹き出しそうになるのを必死に堪える。まさかファストフード食べた事無いなんて…良い所のお坊っちゃんとは言え、まさかそんな事って。
月皇君も「天然記念物だな…。」と思わずつっこんでいた。
結局星谷君の薦めた照り焼きチキンバーガーに決めた天花寺君。私達4人に見守られる中、バーガーを不思議そうに見つめ口に入れると、彼は凄く驚きの表情を浮かべる。
「…上手い。」
「だろ!」
「庶民の味舐めんな!」
「言うようになったじゃねえか、照明。」
「だからその照明って言うのどうにかならないの?」
それから私達は稽古や学校の事、色々な事を話して夕食まで時間を潰した。
寮へ帰ると男子寮と女子寮は建物が別なので寮の前でお別れとなった。
私だけここでお別れって言うのもすこし寂しい気はするがこればかりは仕方がない。
手を振り別れ、友人と合流すると一緒に食堂へ向かった。
夕食を終えると専攻の課題へ取り掛かる。暫くペンを走らせ窓を開けると寮の前に見慣れた4つの姿を見つけた。
「みんな…。」
星谷君、那雪君、月皇君、天花寺君…全員ジャージ姿なので、きっとこれからまた練習するんだろうか。
頑張る皆の姿を見ていると置いていかれまいと頑張れる自分がいる。
「私も負けてられないな…。」
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