「それで済むか!!」


申渡君の静止によりこのまま事は終わると思いきや、やはり彼が黙っていないわけがない。
天花寺君が声を荒らげながら卯川君へドカドカと近付く。


「俺のチームの人間を散々コケにしやがって!!」

なんとその怒りの矛先はどうやら卯川君ではなく申渡君へ向けられたようで、天花寺は力一杯申渡君を腕で掴んだ。

「ちょっと、天花寺君!!申渡君は…」
「楽しそうな事やってんじゃん、俺も混ぜろよ。」
「虎石、お前の相手は俺がしてやる。」

ついには虎石君と空閑君も殴り合いになる始末だ。
ああもう取り敢えず天花寺に捕まってしまっている申渡君がすごく苦しそうで見ていられない。思わず喧嘩を止めに入ろうとすると誰かに肩を掴まれ阻止される。


「華咲はだめ。怪我したら危ないだろ?」
「星谷君…。」

星谷君は那雪君と月皇君の元まで私を引っ張ると「俺も!」と肩を回し始めた。
言いたい事は先程すべて言い切ったのか、彼の顔はやたらスッキリしている。
更には那雪君も交ざるつもりらしく、いよいよ収拾がつかなくなってしまった。
最後には私と月皇君がぼーっと喧嘩を眺めていると言う図になってしまっている。


「大きなお弁当だね。」
「…そうだな。」
「きっと月皇君の分もあるよ。」
「俺の?」

不思議そうに那雪君から手渡された大きなお弁当を月皇君は眺める。

「月皇君もチームで仲間なんだからさ。凄く大切なんじゃないかな。じゃなきゃあんな風に喧嘩したり、怒ったりする筈ないよ。」
「仲間…大切…。うわっ!」
「あっ!」


知らず知らずのうちに喧嘩はヒートアップして、天花寺君が卯川君に掴みかかり突き飛ばすと、卯川君は月皇君と衝突してしまった。
衝突の拍子に月皇君がその手に持っていた那雪君のお弁当が宙を舞う事になる。

宙を舞うお弁当を落とすまいと喧嘩に混ざっていた星谷君が物凄い速さで走り去っていくとその後を追うように1人、駆け出した。

「月皇君!」

星谷君に月皇君、二人同時に着地地点へ滑り込むと落ちてきたお弁当は月皇君の両手に収まった。
月皇君は仰向けに向き直すとそのお弁当を大事そうに抱え、安堵の息を吐いた。
星谷君も月皇君に優しく微笑みかけ事はおさまったように思えたが、どうやらそうは行かないらしい。



「何ですかこれは。」


その場にいる全員が声のする方向へ目を向けるとはっと息を呑んだ。
騒ぎを聞いて駆けつけたのはミュージカル学科のトップである、華桜会の柊先輩だったのだから。


「えっと、これは…」

星谷君がどもりながらも「那雪君の弁当争奪戦です!!」と真剣な顔で答えると全員が笑った。さっきとは打って変わって場の空気は実に和やかだった。



今回の騒動に関わったteam鳳とteam柊は柊先輩に説教を含めた一部始終の説明等をする為、一教室に呼び集められていた。
実際に関わってはいないけれどあの場にいたと言う事で私もお叱りを受けなければならない筈なのに私はと言うと、教室の外、廊下で話が終わるのを待っていた。
…と言うのも。


「…舞台設備専攻の華咲さん。貴方もこの場にいたのなら…」
「待ってください柊先輩。彼女はたまたま通り掛かっただけで関係無いんです。」
「そうですか、ならば速やかに教室へ戻るように。今からこの2チームには少しばかり説教を施します。」
「は、はい…。」


月皇君が庇ってくれたからだ。
…それにしても柊先輩、まさか華桜会のトップが私なんかの名前覚えててくれてるんだ。
この様な規模の学園で生徒の名前を覚えていられるとは凄い記憶力だ、と柊先輩に関心していると、教室のドアはガラっと開かれ、中からは今丁度考えていた人物、柊先輩が出てきた。


柊先輩は私と目が合うと、皆を外で待っていた事に対してなのか、少し驚きの表情を浮かべるとその視線を直ぐに逸らし歩いていってしまった。



柊先輩が出てきてから暫く経つと、今度はteam柊やteam鳳の皆がぞろぞろと出てきた。


「ほら卯川、ちゃんと言いな。」
「わ、わかったよたつみん…。」
「?」
「…さっきは、殴られそうな時庇おうとしてくれて、ありがと。」

卯川君は少し頬を赤らめながらそう言った。目は合わせてくれない。
「卯川君が何ともないならいいよ」と私が笑いかけると卯川君の頬に赤みが増した気がした。

「だってもし殴られて可愛い顔に傷でもついたら…あ」
「ちょっと今可愛いって言った!?やめてよねそう言うのホントありえないんだけど!!」

顔を赤くしながら必死に怒る卯川君に私が耐え切れず吹き出してしまうとteam柊やteam鳳の皆もつられて笑った。それが伝染するかの様に卯川君も笑う。


「俺もすまなかった。不本意とは言えお前に拳を向けようとした。」
「だから気にしてないって。それに、お昼ご飯を守ってくれたからチャラね。」

今度は月皇君に微笑みかけると、彼は今までにない程柔らかな笑みを浮かべた。


「ああ、そうだな。」
「じゃあ、お説教も終わったところで、早く那雪君のお弁当食べようよ!」
「俺も腹減った。」
「じゃあ稽古場までダッシュー!」


今日卯川君が月皇君に言った事は許させる事ではないけれど、少しでも彼らの距離が縮まったのなら、今日の事は忘れないで欲しいと私は思った。 次に繋がる経験値になるように…。










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