『ーーーーでは次のニュースです。若手ながらに見事最優秀演劇大賞を受賞した若きミュージカルスター月皇遥斗さん……』

朝、起床して何気なくテレビをつけるといつも学園に飾られているポスターの人物がそこには映っていた。

月皇遥斗。ミュージカル学科team鳳の月皇海斗君のお兄さんだ。何でも元綾薙学園華桜会のメンバーで学園を首席で卒業したとか。

月皇君…月皇海斗君の事はまだよく知らないけれど、もし私にあんな兄がいたら100%コンプレックスだろう。

月皇君はどうしてお兄さんと同じルートを歩むようにこの綾薙学園へ、どんな気持ちで入ったのだろう。

…他人の私がいくら考えても関係ないか…。
それに、彼は綾薙学園を首席で入学したと聞いている。兄が天才な様に、彼もまたそうなのかもしれない。
もう考えるのはやめにしよう。


「あ、シャー芯がない。」



……




「シャー芯、シャー芯…」

コンビニでシャーペンの芯とついでに今日もまた打ち合わせで芸能系の校舎に行くのでteam鳳のみんなに差し入れでも、と何本かジュースを買った。team柊のみんなにまで配る程の財力は残念ながら今の私にはない。差入れを渡すついでに虎石君に捕まっても面倒なので。

帰り道は何気なく公園を通るルートで帰ろうと思った。
公園に差し掛かり、星谷君はいないか、ふと中を見るとそこには見知った人物が練習していた。


「月皇君…?」

疑問形なのは彼が朝から自主練習しているのはとても意外だと思ったから。
ステップは正確で舞う彼を綺麗だと思った。
でもその表情はどこか苦しそうだ。
月皇君は一通り踊ると膝に手を付け息を荒らげる。
私は声を掛けるに掛けられなかった。

どうして彼はそんなにも苦しそうに踊るのだろうか。
ふと朝ニュースを見た時に浮かんだ思考が頭を遮る。月皇君は努力している。兄に追い付こうとしているのか、自分を高めるためかどうかは解らないが、どうしても苦しそうな彼の顔が頭から離れない。




午後には残りの班との打ち合わせが控えていた。私達のグループは各自で指定された場所へ集合との事で私は芸能系学科の校舎を訪れていた。

今朝実は月皇君を公園で見かけた後星谷君に会った。午後から打ち合わせだという事を話せば「一緒にお昼食おうぜ!」と、なんとお誘いを受けてしまった。特に断る理由もないのでOKだと返事をすると、なんとお弁当は那雪君お手製をご馳走してくれるとか。

team鳳の稽古場に集合との事で早速向かうがやはりこの校舎を私みたいな奴が歩いていると目立ってしまう。
廊下はさっさと通ってしまおう、と少し歩くスピードをあげると突然腕を掴まれ、それは阻まれた。


「あれーあやめちゃんじゃん。」

「げ…虎石君…。」


もっとも出くわしたくなかった虎石君に出会ってしまうとは、しかも呼び方に変化が見られている…だと。


「げって何だよ。今日も打ち合わせ?」
「そうだけど、ごめん、急いでて…」

心無しか徐々に距離が近くなってる気がする。
イケメンにそんなに距離を詰められてしまうと色々な意味で無理だ。それに虎石君は女たらしでも有名らしいから、あまり近付かれるのも宜しくない。こんな所を見られた日には彼女さん達に刺されてしまう。

「虎石君…近いよ。」
「気にしない気にしない。それよりさ、今から俺とお昼食べない?奢るよ?」
「遠慮します。今から星谷君達と食べるから。」
「愁達かよ…なんか負けた気がしてムカつく…」


私が後ろへ下がるのと連動して虎石君もどんどん距離を詰めてくる。一見イケメンが迫ってきているおいしい状況ととれるが、今の私はゾンビを倒すホラーゲームでよくある武器を持っていない丸腰状態でゾンビが襲い掛かってくるようなそんな状況だ。
腕を掴まれているので逃げられない。

遂に背中と壁がぶつかり逃げ場は無くなってしまう。
腕をやっと離してくれたかと思うとその手を壁に付ける。所謂壁ドンというやつで、私もそういう事に関してはまるっきり憧れていないわけではない。不覚にもドキドキしてしまっている自分がいた。

「ちょ…」
「愁達なんてほっといてさ、俺とデートしようぜ。」

イケメンだろうが壁ドンだろうが、こうしつこいのと、いい加減お腹がすいてきたのとで心無しかイライラしてきている自分がいる。
どうしたものか、困り果てていると誰かが通り掛かったのか、足音が聞こえた。

「月皇君…。」
「華咲?と…確かteam柊の…虎石。」

救世主とはこの事だろうか。
お願いです月皇君助けて下さい。











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