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ルージュの誘い



先程の行為の跡がくっきり残る彼の唇を見て、ブルーは思わず笑った。
「口紅、付いてるわよ」
己の唇を指しながらそう教えてやると、グリーンは指で軽く触れて確認した後べろりとそれを舌で舐め取る。そしてう、と顔を顰めた。
「……不味い」
食べ物じゃないんだから当たり前でしょ、と再びブルーの唇が弧を描く。その上に引かれた、自分に移った分を除いても未だに残る濃い赤にグリーンはぼそりと呟いた。
「その色、きつすぎないか」
普段ブルーが付けるのはピンクやオレンジ寄りの淡めな色が多い。しかし今日は身に纏ったドレスと場の雰囲気に合わせた色を乗せていた。
「似合わない?」「似合わなくはないが、気にくわない」
前髪を片側だけ掻き上げて固められているお陰でグリーンのあからさまに不機嫌な表情がいつも以上によく見える。
何故気にくわないのか、ブルーには大体予想がついていた。きっと今彼の脳裏に居るのは名前と同じ赤い瞳を持つ好敵手の姿だ。大人っぽいと評判のグリーンだが、実は意外と子供であり、尚且つ独占欲が強いのは恐らく自分と彼の姉くらいしか見抜いてないだろう。
そんな彼の稀少な一面を見られて内心嬉しく思いながら、ブルーはグリーンの首に正面から腕を絡ませた。今度はくすくす笑いではなく、妖艶な笑みを浮かべて言葉を紡ぐ。
「じゃあ、綺麗に落としてくれる?」
細められた翡翠の瞳に焔が揺らめいたのにブルーが気付いた時には既に、グリーンが真紅のルージュを落としにかかっていた。
(不味いとか言ってたくせに)
貪るように食らい付いてくる唇の熱さを感じつつ、ブルーは瞼を閉じて大人しくそれを受け入れることに専念することにした。




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