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学パログリブル




薄暗い路地裏に革靴の音。
時間をかけすぎた、と舌打ちするのと同時に凛とした声が響く。
「まさかあのくっそ真面目な生徒会長サマがこんなことしてるなんてね」
視界に入ったのは見覚えのありすぎる制服であった。スカーフの色からして同学年。
うちの生徒か、と益々眉間に皺を寄せる。厄介なところを見られてしまった。
押さえていた腕の隙間からぽたり、と赤が流れ落ちる。痛みはそこそこあるが神経まではやられていないだろう。しかし流石に流血させっぱなしはまずい。
どうしたものか、と傷口を眺めていると、いつの間に目の前に立っていたその女はしゅるりとスカーフを解いた。
「腕、出しなさいな」
どことなく有無を言わせぬ口調に素直に腕を差し出した。心臓に近い方をきつめに縛られ一瞬痛みで呼吸が詰まったが、ともかくこれで止血にはなる。そうなれば次の問題は。
「報告するか」「…まさかぁ」
そいつは俺の隣をすり抜けて地面に伏している他学生の前で止まった。直後にカシャーン、という金属音。
「素手の人間相手に凶器使ってくるような人間に、同情の余地なんかないわ」
ナイフを持っていた男を見下す青い瞳に思わずぞくりとした。蹴飛ばされて滑って行ったナイフは壁に当たり跳ね返る。刃は赤く濁っている。
反動で回転していたナイフが動きを止めると同時に、そいつの纏っていた氷のような雰囲気は霧散した。変わった女だ。
「お前」「ブルーよ」「は?」
反射的にそう返すとそいつは何か態度悪、と口を尖らせ、びしっと人差し指をこちらに突き付ける。人を指すのも良くない態度だと思うがここはスルーすることにした。
「あたしの名前よ。生徒会長サマ?」「…グリーンだ」
少々不機嫌な声色で名乗ると知ってる、と彼女は笑った。やっぱり、変わった女だ。
しかし、面白そうだ。

暫くはあの喧嘩ばかりの非日常から離れられる気がした。




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