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N←トコ←チェレ



久しぶりにジムに現れた彼女を見て驚いた。
以前は頭の高い位置で結われていた茶髪が肩のところからばっさり切り取られている。視線の先に気づいたのか、トウコは毛先を摘まみ上げた。
「あぁコレ?ちょっと気分転換」
ベル相手ならともかく、自分相手にもそんな嘘が通用すると思ったのか。彼女が髪を切った理由は、きっとそんな一時的なものではない。
お互いに無言になり数分。先に音を上げたのはトウコだった。顔を隠すように帽子のつばを下げるとぽつりと呟く。
「…フラれちゃった」
あぁやっぱり、と頭の片隅で思う。緩くウェーブのかかったあの艶髪は、彼女の恋心と心中したのだ。女らしさの欠片もない、と弟や身近な人から苦笑いされるような彼女が唯一常に手入れを怠らなかった己の一部。
「でもさ、ボブも似合うと思わない?」
無理矢理作った笑顔でそう問うてくる彼女の青い瞳はどうか似合うと言ってくれ、と懇願しているように見えた。冗談じゃない。逃げ道になんてされてたまるか。
「長い方が良かったよ」
そう答えると一瞬泣き出しそうな顔をした後そう、とただ一言返事が返ってくる。少々冷たかったか、と罪悪感を抱いたが、その後に続いた言葉に耳を疑った。
「この髪型にしてから鏡見る度にチェレンのこと思い出すのよね」
は?とパソコンに向けていた視線を彼女に合わせる。トウコは短くなった髪に指を絡ませて遊んでいた。何でここで自分の名前が出てくる。その答えは実に単純だった。
「何となくチェレンの髪型に似てるでしょ?」

ならいっそ黒に染めてしまえばいいのに、とは言えなかった。

彼女は時に酷く残酷で。




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