メガネ
となりのメガネ売り 〜そして僕はメガネを買った〜
主人公(男) メガネ売りの老婆(女) 来客者(魚沼産コシ・ヒカリ)(女) 魚屋(メガネ売りのおじさん)(男)
1.焼きいもだってやれば出来るさ
老婆 いーしやぁーきーいもー、やきいもっ 主 (振り返りながら)焼きいも?…あっすいませーん。焼きいも二つ…め、”めがねや”? 老婆 おっしゃ!引っかかった!(ガッツポーズ)いらっしゃいお兄さん 主 えっ!?すいません、人違いでした 老婆 まあまあ、そう固いこと言わずにぃ!そこのお兄さん、あなたにぴったりの おメガネ、私がちゃあんと選んであげるからさあ! 主 いや、でもタダじゃないでしょ。第一僕メガネいらないんで 老婆 なーに言ってんの!今はメガネが”ふぁっしょん”の時代よ。知らないけど 主 知らないのかよ!とにかくいらないんで行かせてもらいま… 老婆 まあまあ!見ていくだけでいいからさ!(強引に引き止める) 主 (ためらう)仕方ない。ちょっとだけですよ? 主人公、しぶしぶ店に向かう。 老婆 まずねえ、あんたにはこれが…似合うんじゃないかな? 老婆、『ふつうのめがね』を差し出す。 主 あの…これ普通のメガネですよね?ん、値札ついてる。一、十、百、千、万、十万、 百万…三百万んんん!? 老婆 安いでしょー 主 どこがじゃあああ!ぼったくりじゃねえか!これ普通のメガネだろ! 老婆 そうよ。…じゃあもうちょっと安いやつ。はい、『にじいろめがね』 主 『にじいろめがね』?トンボのメガネですか? 老婆 そうよ 主 反応に困るんですけど。安いって…いくらですか? 老婆 特別価格、29万8000円!ただいまキャンペーン中で、もう一本お付けすると、 なんとなんと、89万8980円! 主 高くなってねえ!? 老婆 これはね 主 聞いちゃいねえ 老婆 レンズの向こうに、夢と希望をつり下げていらっしゃる虹の野郎が、こっちをチラ 見してきます 主 気持ち悪い上になんか訳わかんなくなってきた! 来客者、手にチョコレートらしき箱を持って、主人公の後方から主人公を見つめている。 来 あの… 主 え?なんですか突然 来 こ、これ!(箱を押し付ける) 主 何なんですか?これ 来 あの、今日は、ば、ば、バレンタインだから… 主 え!?今日はバレンタインじゃないですよ? 来 毎日がバレンタインデーです! 主 あー、ずいぶんと乙女な方なんですね 来 あなたのこと、ずっと前から気になっていたんです!それで…これを渡したくて… 主 あ、ありがとう。あの、開けてもいいですか? 来 (うなずく) 主人公、包装を開けて、箱の中身を見る。 主 (何らかのカレーの商品名)カレー…!?カレーかよ!チョコレートじゃなくて!? 来 ずっと気になっていたんです。あなたの食生活。最近カップ麺ばかり食べてたでし ょ。いけませんよ?野菜も摂らなきゃ。カレーならニンジン、ジャガイモ、キュ ウリなどたくさんの野菜が摂取されてそれから… 主 ちょっと待てよ!普通カレーにキュウリなんて入ってねーよ! 来 …え?…え? 老婆 うちのは入ってるよ 主 えええ!?まじで!?…ってええい、そんな事はどうでもいい!なんで他人のあん たが俺の食生活しってんの!?もしかして「ス」の付く職業とか… 来 ええ、そのとおりです。ストーカーですよストーカー 主 自分で言っちゃったよ! 来 言っちゃいました。えへっ 主 「えへっ」じゃないよ! 来 (無視して)すいませーん!『にじいろめがね』くださーい! 老婆 あいよ。あっ、これは特別価格29万8000円。ただいまキャンペーン中で、も う一本お付けすると、なんとなんと89万8980円! 主 やっぱり高くなってるよー? 来 うわー、やっすーい!お得ですねー! 老婆 そうでしょー? 主 騙されてるよー? 来 じゃあ二本ください 老婆 はいお買い上げー! 来 一括払いで 老婆 いいのかい?しめしめ。またのご来店お待ちしておりまーす! 来 はいはーい!(主人公のほうをちらっと見て)…ふっ、貧乏人めが(去る) 主 ちょっと!?おーい!…何あいつ、ムカつくんですけど! 老婆 じゃあ最後は… 主 まだあるのかよ… 老婆 この『ぐちゃぐちゃめがね』…まちがえた、『ずべじゃるめがね』! 主 どこをどう間違えたらそんな間違え方すんの!?ついでに言うと、それ”スペシャ ル”じゃねえの!? 老婆 ん?”ずべじゃる”だよ? 主 えーっと、”スペシャル”じゃないんですか? 老婆 あぇっ?(とぼける) 主 (イライラ)スペシャルじゃないんですか? 老婆 あぇっ??(とぼける) 主 だからスペシャ… 老婆 ”ずべじゃる”だよッ! 主 聞こえてんじゃねえかあ!もういい!帰るからな! 老婆 ちょ…ちょっと待ってえ!買っていってよーう!(腕にしがみつく) 主 あああああ!もうっ!…いくらですか。どうせウン百万… 老婆 300円よ 主 300万ですか 老婆 さん・びゃく。えん! 主 いやいや絶対嘘だ!冗談はよしてくださいよ、もう僕帰りますから… 老婆 ほんとに300円だからあ!買っていってよう、ねっ?ねっ? 主 (迷う)…ほんとに300円ですよね? 老婆 (うなずく) 主 …わかりました。買ってやってもいいですよ。で、これは何が、”ずべじゃる”なん ですか? 老婆 (さあ) 主 しらねえのかよ! 老婆 だってえ、これなんかいわくつきらしいしい。詳しい効果はしらないんんだよねえ 主 無責任な!しかもいわくつき、ってなんだよ! 老婆 だってしらないんだもーん! 主 なにそのテンション!? 老婆 はい、お買い上げー!(喜びの舞)あ、時間だわ 主 え? 老婆 はい、ポチッとな(ラジカセ) なにやら曲が流れ出す(蛍の光) 老婆 あーえーあー、ただいまマイクのテストのマイク中ー。本日は晴天なりぃー。カニ 食えばー腹が鳴るなりいーいーしやーきーいもおーいもっ 主 長いよ!そして何が言いてえんだ!? 老婆 (咳払い)えー、本日は当店「でぱぁと・メガネ」のご利用、誠にぃ、ありがとうご ざいました。もういい加減疲れたんでぇ、本日はこれにて営業時間を終了してもよ くない?ってな感じでぇ、まあ、なんだかんだで営業時間を終了することにいたし ました。またのご利用をお待ちしておりま―――――――――――――――――― ―――――――(息が続く限り伸ばす)―――――――――――――――――――― 主 なっがいよ 老婆 ――――――――(息きれる)ぜえぜえぜえ…すーっ(酸素のつもり)…あれ?声が? 遅れて?聞こえて?くるよ? 主 こねえよ!おかしいのはアンタの声ですよ 老婆 声?なんでこんなことになったの?これ酸素じゃないの? 主 なんて書いてあるか確認すればいいでしょ 老婆 えいち、に、って書いてあるよ?これ酸素でしょ? 主 ちょっと残念なお知らせがあります。”H2”は、酸素じゃなくて、水素です。ちょ っと貸してください。…もうひとつ、残念なお知らせです。これは、酸素どころか 水素でもなくて、”He”ヘリウムですよ! 老婆 なんじゃそりゃあああ!(缶投げる)ヘリウムって何じゃああああ! 暗転。
2.騙すものは騙される
魚屋 らっしゃいらっしゃい!新鮮ピッチピチの魚が入ってるよー!寄ってらっしゃい 見てらっしゃい! 主 さっきは散々だったよ、全く。…そういえば今晩何にするか決めてなかったよな。 ん、そうだ、すいませーん、アジありますかー? 魚屋 おう、あるよ!うちのは新鮮ピチピチよお!ピッチピチピチピチピチピチピチピチ ピチグチャピチピチピチピチピチィ! 主 ピチピチしつこいですよ、あとなんか違う言葉が入ってましたよね!? 魚屋 んじゃ、こっちの魚を…よっこらせ! メガネ屋の看板登場。 主 またかよ!何!?今メガネ屋流行ってんの!? 魚屋 新鮮ピチピチだよ! 主 メガネがどうピチピチなんだよ!ちょっともう帰らせていただきます… 魚屋 待ちなァ兄ちゃん!うちのは新鮮ピチピチって言ったろ!? 主 だから聞きましたよそれ!何度言うんですか! 魚屋 もーう、うちのも見ていってやってくださいよ。じゃおすすめは――― 主 帰りますって! 魚屋 『にじいろめがね』! 主 なんか聞いたことあるぞそれ! 魚屋 なに!? 主 確か、『レンズの向こうに、夢と希望をつり下げていらっしゃる虹の野郎が、こっ ちをチラ見してきます。』ってヤツでしたよね? 魚屋 よく一字一句間違ってねえなあ。そいつぁどこで見たんだ? 主 へ? 魚屋 どこの店で見たのかって聞いてんだ 主 え…えっと…確か…『でぱぁと・メガネ』って店で… 魚屋 『でぱぁと・メガネ』だとお!?…おーう!あの婆さん上手くやってるのかい!? 主 うまくやられましたよ。あれ半分悪徳商法ですよ 魚屋 元気でやってるのか、って聞いてんだ 主 酸素と間違えて、ヘリウム吸ってました。 魚屋 なに!?あの婆さんまだやってたのか!? 主 まだ、ってどんだけ間違えつづけてるんですか!あの人! 音楽が流れ始める。 魚屋 あれは…10年前の…ことだった…かなあ? 主 なんですか突然!? 魚屋 婆さんが、うちに来て…言ったんだ。 『メガネ・is・freedom!』 音楽終わる、沈黙続く。 主 …終わり!?ヘリウムどうなったの!? 魚屋 何の話だい。ヘリウムってなに? 老婆登場。(まだヘリウム状態) 老婆 ち…ちょっとそこのジジイ!アンタなにやってんの!? 魚屋 ババアのお前に言われたくないわい!俺はまだ30代だもんねー! 主 マジで!? 老婆 メガネの出店はアタシの専売特許なんだよ!(徐々に声戻る) 主 ヘリウム抜けましたよ 老婆 (ヘリウム缶を取り出す)すーはーすーはー 主 うーわ体に悪そう…。…よいこは真似しないように 老婆 よし 主 よしじゃねえよ 老婆 そんなことより!アンタ、メガネの300円払ってないでしょ!?お金貰った 記憶ないんだけど! 主 メガネ買った記憶がないんだけど! 老婆 嘘おっしゃい!あたしゃあねえ、証人連れてきたからね!福岡県の、うおぬまさー ん!(ニュース風に) 来 はーい! 老婆 こしひかりっ 主 米かよ。証人って人だろ普通! 来客者(魚沼産コシヒカリ)登場。 主 あれ…アンタ、さっきの…! 魚屋 ひさしぶりぃ! 主 お前じゃねーよ 来 (咳払い)お久しぶりですこんにちは。お初にお目にかかります 主 矛盾してますよ 来 軽く自己紹介でもしておきましょうか。(名刺を取り出す)わたしは、魚沼産コシヒ カリという者です 主 マジかよ! 来 ちなみに、魚沼産コシ・ヒカリですからね。よろしくお願いしますよ 主 それ本名じゃないですよね 来 なに言ってるんですか。本名じゃなきゃ何なんですか 主 (戸惑いを隠せない) 老婆 なーにごちゃごちゃ言ってんだい!アンタ証人だろ!?とっとと300円貰って 来なさいよ!150万円払ったでしょう!土下座までして頼んだのよ!? 主 依頼料高っ! 来 そうですか?さっきあれだけぼったくられたのに?取り返さなくてどうするんです か? 主 うわ、あんたもしかして最初からそういうつもりで…!汚っ! 来 ふっふっふ。実はですねえ…あなたの持っているその300円は、古来より伝わる 秘宝、”まぼろしのコイン”でしてねえ 主 嘘くさい 来 ほんとですよ。その証拠に、あなたの持っている百円硬貨の縁には、あの伝説のマ ークがついているはずですから… 主 怪しいな。(しぶしぶ取り出す)…どこですか?そんなのないですけど。これ普通の コイン… 来 ちょっと貸してみてください。どれどれ…おっしゃ! 来客者(魚沼産コシヒカリ)ガッツポーズをしながら走り去る。 だが、コインを落としていくのに気づかない。 魚屋 おっ、いいもんみーっけー! 魚屋、コインを拾って走り去る。(むちゃくちゃ喜びながら) 主人公置いてけぼり、老婆、魚屋を追いかけるが取り返せず帰ってくる。
老婆 行っちまったねえ 主 行っちまったよ… 老婆 行っちまったねえ 主 行っちまったよ… 老婆 行っちまったねええ! 主 怖いよ!なに今の!? SEカラスの鳴き声+アホウ 老婆 焼きいも買って、帰ろうかねえ 主 そうですね。ってあんた焼きいも売ってるんじゃなかったの? 老婆 え?ああ、あれは詐欺だし。売ってるわけないじゃないの 主 言った!今詐欺だって言いましたよこの人!おまわりさーんここに詐欺師がー 老婆 あ――――――!でもそれ言ったらあの魚屋のジジイだって詐欺じゃないのよ 主 犯罪だよそれ。言っとくけど!分かってますか!? 老婆 …あぇっ? 主 駄目だよこの人…。今晩は、魚にするかな…おばあさんもどうです?一応アジ買 って帰るんですけど。…他の店でな! 老婆 (声徐々に戻る)ひひひ、そりゃそうだわ!あっはっは!うーん、お邪魔させても らうとするかねえ 主 あ、ヘリウムいいんですか 老婆 うっ、ううっ 主 えっなんですか突然! 老婆 ううっ、ううっ、…酸素ォ―――――! 主 だからヘリウムだよ!それ! 幕。
prev next
|