「合格」

その二文字を見て、思わず泣きそうになった。みんなからも、まるで自分のことみたいに、いっぱい祝福された。

「センターを受けておいて良かったな。」

柳のアドバイスで、私はセンター受験を決めた。このアドバイスが無ければ、私の合格は無かっただろう。一般では点数が足りず受からなかった為、センター利用で合格出来たのだから。

「おめでとさん、ティッシュ」

哀しげに笑う仁王に何て返せばいいのか分からなかった。黙ったままの私に、彼は笑って私を抱き締めた。

「そう湿気たツラしなさんな、まだ後期があるじゃろ」
「……そうだけど、」

仁王はセンターを受験していない、春の時点で事前に申し込んでいなかったからだ。もし仁王もセンターを受けていれば。…そんなこと、本人が一番分かっている。



結局後期でもダメだった、本人の口からではなく、風の噂で結果を聞いた。みんなが最後に会える卒業式にも、仁王は来なかった。幸村が海外に行ってしまう日も、彼は来なかった。不安そうな私に、幸村はこっそりと教えてくれた。

「今朝仁王が、別れを言いに俺の家まで来たんだ。」
「えっ」
「あいつ、まだ諦めてないみたいだよ」

浪人するんだって、何となく嬉しそうな口振りの幸村は「あいつなら大丈夫だよ」と優しく微笑んだ。あれだけ勉強を嫌っていた仁王が、浪人してまで入りたいなんて。

「精市、次の便だぞ」

知ってる、と幸村は私の頭を撫でてからキャリーケースを引っ張って歩いて行った。搭乗口に向かおうとする幸村に「ぶちょー!また俺と試合してください!」と大泣きする赤也を見て、みんな笑った。仁王にも赤也のこの顔、見せたかったなあ。



あれから一年、一度も仁王と連絡が取れないまま月日が流れた。週に二三回、メールをしているが今まで一度も返事は来たことがない。同じく柳生や丸井も、仁王と連絡が取れないと泣いていた。今日は新一年生になる人たちの、入学式だ。在校生の私たちは、手伝いの為引っ張り出された。

「あー、同好会の勧誘に引っ張り出されるなんて最悪だよー」
「…口より手を動かしたらどうですか」

柳生に咎められながら勧誘のビラを配れば、一人の少年が真っ直ぐ近付いてきた。もしかして、私たちの同好会に興味があるのだろうか?

「のぉ、法学部に案内してほしいんじゃけど」

赤也みたいな真っ黒に黒染めされた髪は、かつての仁王とは掛け離れていた。しかしこの口調、雰囲気、口元の黒子…間違いなく、彼は仁王雅治本人だ。

「……入学、おめでとう」
「だから、絶対受かるって言ったぜよ」

あいつなら大丈夫、幸村の言った通り仁王は難関を突破して来た。周りの新一年生が見ているのも気にせず、私たちは泣きながら仁王の合格を祝った。


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