幸村はプロからスカウトされたので、卒業したら海外に行く。早く働きたいから、とジャッカルは就職先を早々に決めていた。弁護士になりたいからK大学法学部に行くんです、と柳生は言っていた。一流のパティシエになりたいっていう夢が、丸井にはある。私の夢って、何だろう?



「ティッシュなら、公務員とかどうだ?」

進路を決めたと柳に報告すれば、彼はまるで自分のことのように嬉しそうだった。ついでに将来の夢について相談すれば、公務員を勧められた。

「公務員、かあ」
「公務員は安定しているぞ」
「だよねえ」
「まだ時間はある、ゆっくり考えてみろ。」
「…じゃあさ、柳は何になりたいの?」

参考書から視線を上げることなく、彼は「俺にも聞くのか」と可笑しそうに笑った。私ばっかが教えてたら、フェアじゃない。

「俺の夢は、社長になることだ」

至って真面目な顔で答える柳に、思わず吹き出した。だって、まさか柳の夢が社長だ、なんて。

「石油王と答えた方が良かったか?」
「それジャッカルだし」

私も参考書に視線を落として返した。ジャッカルが、石油王。……うん、なかなか似合うかも。

「社長になれば、お前を雇ってもいいぞ」
「じゃあ一応、候補に入れとくね」
「何の候補だ」
「…わたしの、将来の夢。」

是非入れといてくれ、と真っ直ぐ私を見つめて言う柳は、もしかしたら…本当に社長になってしまうかもしれない。



その日の夜、仁王に呼び出された。待ち合わせの公園まで行けば、彼は私に何かを差し出した。

「俺も、決めたぜよ」

進路希望調査と書かれた紙には、大きく「ティッシュと一緒」と書いてあった。今の仁王じゃ、K大学は絶対無理だ。恐らく皆、そう思うだろう。死ぬ気でやっても、半年では間に合わない。

「俺は諦めん、絶対此処って決めたんじゃ」

そっか。独り言のように呟いた言葉が、返事の代わりだった。「無理だよ」とも言えないし、「仁王なら大丈夫」とも言えなかった。こんな時、彼に何て言えばいいのか、わたしには分からなかった。


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