「ティッシュは大学行かねーの?」

朝のSHR前、丸井に呼び出されたと思ったらそんな内容だった。悩み中、と目線を逸らして答えると、彼は不快そうに眉をひそめた。

「はぁ?何でだよぃ。お前頭良いんだから、大学行けばいーじゃねーか」
「……勉強、嫌いだし。別に将来の夢もないし」

意味分かんねぇ、妙にイライラした口調で丸井は足早に去って行った。一体何なのだ、分からないのはこっちの台詞だ。

"話がある"
一時間目が始まってすぐに丸井から送られて来たメールはたった一行だけだった。返事をする前に「二時間目屋上」とまた一行だけのメールが届いた。…私にサボれ、と言いたいのだろうか。

「話ってなに?」

彼の望み通り二時間目の数学をサボって屋上に行けば、「遅え」と不満そうに言われた。…お前一時間目から居なかったからだろ。

「とあるMの話を聞いてくんね?お前の進路に関わるかもしれねーから」
「……いいけど。」

Mには白髪の親友がいるんだけどよ、そいつがまだ進路決めてねーんだ。んで、白髪は自分以外にも進路が決まってないやつがいる、って安心してるわけ。つまりそいつが進路を決めれば、白髪も真面目に進路を考えるんだよ。…あとさ、Mも本当は大学行きたかったみてーなんだよ。でもそいつ馬鹿だから、国公立なんて無理だし。弟たちもいたらよ、私大なんて金かかって行けねーから、専門行って…まぁ一流のパティシエになろうと、そいつは一大決心したんだよ。人生諦めも肝心だろい?

「なぁ頼む、Mの為だけじゃなく、そのMの親友の為にも…真面目に考えてくれねぇか?」

何故だろう。昨日柳に言われた時とは違って、不思議と嫌な気分にはならなかった。丸井だからかもしれないし、Mのお陰かもしれない。昨日貰った進路希望調査の紙は、まだ鞄にある。

「丸井、Mにありがとうって言っておいて。わたし、ちゃんと進路決めるから。」

丸井は嬉しそうに「分かった」と頷いていた。


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