※死ネタ表現あり


「最近、誰かに見られてる気がするの。」

なまえはそう言って見えない何かに怯えていた。俺が笑って「気のせいじゃないのかい?」と聞けば、安堵したように「幸村くんの言う通りかも」と微笑んだ。ああ、可愛い。俺だけのなまえを困らせるなんて許せないな。なまえに付き纏うなんて一体誰なんだろう。同じクラスの丸井か仁王のような気もするし、幼なじみの蓮二のような気もする。それとも面倒見のいいジャッカルだろうか?なまえに一番懐いている赤也も、委員会が同じの柳生も、なまえのスカート丈をよく注意している真田も怪しい。言いだしたらキリがないや。やっぱりなまえに近付く奴はイップス、ってちゃんとみんなに忠告した方がいいんじゃないかな。

「幸村くん、どうしたの?」

思わず笑えば、なまえが不思議そうに尋ねてきた。何でもないよ、と笑って誤魔化せば「幸村くんは笑い方も綺麗だよね」と妙な結論に導き出された。

「なまえの方が綺麗だよ」
「もう!幸村くんが言っても全然説得力ないんだから!」

本当のことなのにな、と内心思いながらも適当に話を合わせた。それにしても、赤い顔を隠すように手で覆う姿も可愛いな。思わず脳内に焼き付けようとすれば、「あんまり見ないでよね」と顔を背蹴られた。どうしてなまえがすると、こんなにも可愛くなるのだろう。

「ねぇ、もっと俺に色々見せてよ」

思わず無意識に呟いた言葉に、なまえはよく分からないような表情をした。「       」って言おうと思ったけど、純粋ななまえを汚すみたいだから、やめておいた。ほら、俺好きな子は大事にしたいからさ。その時なまえの携帯が鳴った。あれ、もしかして着信音変えた?昨日までは流行りのアイドルの曲だったはずなのに、

「あっメールだ」
「誰から?」

蓮二、と嬉しそうに答えるなまえに嫌な予感がした。「へぇ、」と焦る気持ちを抑えて呟けば、何も知らないなまえは「ごめん幸村くん、私帰るね!」と駆け出して行った。ふーん、蓮二からメール、ね?なんだよあいつ、俺の許可なく勝手になまえとメールしやがって。嗚呼、スゴくもやもやする。神の子だってさ、嫉妬くらいするんだよ。なまえは俺だけを見てればいいのに。いっそなまえと関わっている縁を全て切ってしまおうか。そうだなあ、まず手始めに

「蓮二から、かな」

翌日からなまえを見張り続けた。可笑しい、前までは隣のクラスの女子と一緒に帰っていたはずなのに。ここ数日ずっと蓮二と帰宅している。それになまえが朝練を見に来る時もある。まさか、

「蓮二、聞きたいことがあるんだ」
「奇遇だな精市、俺もだ」
「…最近、彼女出来た?」
「嗚呼、なまえと付き合っているが」

なまえ、なまえ、なまえ、俺だけのなまえなのに。蓮二の彼女?付き合ってる?嘘だ、なまえが俺を裏切る訳がない。そうだこれはきっと悪い夢なんだ、蓮二の冗談に決まっている。

「精市、なまえに付き纏うのは辞めてくれないか」

鋭過ぎる蓮二の視線を思わず反らした、俺がなまえに付き纏っている?まさか。俺はただ、ただ…彼女のなまえを見守っているだけなのに。むしろ付き纏っているのは、蓮二の方じゃないか。俺のなまえに手を出して、さ。いっそ彼女から蓮二の存在を奪ってしまえばいいんだ。

「蓮二はさ、詰めが甘いんだよ」
「…精市、何が言いたい」
「なまえは俺のもの、分かる?」

ゆっくりと倒れていく蓮二を置いて、俺はその場を去った。次はなまえの番だよ。ふふっ、俺が迎えに行ったら、きっとなまえは驚くだろうなぁ。

「ゆ、きむらく…ん?」
「なまえ、迎えに来たよ」

ほら、嬉しさのあまりなまえは泣いてるじゃないか。ギュッと抱き締めたなまえの服には、赤い手形がべったり付いた。



Kill me,kill you.


幸村精市