※尿ネタ、下品





__さんだけ、検尿出てへんよ?

珍しく担任の先生に呼び出された理由は、私だけ検尿を提出していないから、だった。あれ?うち今朝ちゃんと出したんやけど?

「先生、うち今朝出しました」
「可笑しいなあ…。確認したけど無かったで?」

先生も首をかしげていたが、無いもんはしゃあない、私だけ「再提出」することになった。再提出の場合、保健委員の人に直接渡すことになっている。うちのクラスの保健委員は無駄のないイケメン、白石くんだ。ほんまは白石くんに検尿を渡すんは嫌やったけど、保健委員の人が保健室に持って行かないとあかんので、私は仕方なく白石くんに託すことにした。

「白石くん、あの、」
「検尿?」
「え?ああ、うん…」

あれ?白石くんは最初から分かってたかのように手を出して「出しとくよ」と、あの王子様スマイルで微笑んで来た。もしかしたら先生に言われてたんかも、うん。だって白石くん保健委員やし、知ってても不思議じゃないもんな。
白石くんに検尿を渡せば「めっちゃ絶頂」とか言いながら受け取ってくれた。白石くんの絶頂は口癖やから気にせんけど、人の検尿受け取って絶頂って、どういうことなんやろう…?ありがとう、とお礼を言って去ろうとすれば、白石くんに引き留められた。

「ああ、__さん。もうちょっと水分補給した方がええよ。脱水症状なるで?」
「え?」
「今日はあんま飲み物、飲んでへんのちゃう?」

白石くんに言われてびっくりした。確かに今日は朝起きて水一杯飲んだだけ。白石くんに言うてないのに、…何でそれを白石くんが知ってるんや…?黙ったままのうちを置いたまま、白石くんは検尿を出しに保健室に行ってしまった。疑問というか、腑に落ちないというか、もやもやしたまま自分の席に戻れば友達に「先生からの呼び出し、何やったん?」と早速聞かれた。

「検尿が出てへんって、」
「だから白石くんに渡してたんか!…あれ、でも朝の検尿集めたんも白石くんやなかった?」
「そうなん?」
「ほんまは学級委員の佐藤さんなんやけど、白石くんが集めることになってん」

え、じゃあうちの検尿出してたんも白石くんなら知ってたはず…。それにあの完璧主義な白石くんなら見落としもないし、もし知ってたなら再提出を疑問に感じると思うんやけど。

「まあ紛失したなら、しゃーないって!なまえもついてなかったなあ」
「うん……」

納得できなかったが、それ以上考えても仕方ないので気にしないことにした。翌日学校に行けば、何故か白石くんに「今日、一緒にお昼食べへん?」と誘われた。今まで喋ったことなど殆ど無かったから驚いたが、断る理由も無かったので一緒に食べることにした。

「白石くん、何処で食べるん?」
「んー、保健室でもええか?」

ニコッと笑う白石くんに、「あ、うん…」と曖昧な返事しか出来なかった。てっきり屋上とか、教室やと思ってたんやけど。ポケットから鍵を取り出す白石くんは「保健委員の特権や」と嬉しそうだった。

「こっちこっち」

手招きにつられる様、中に入った時、白石くんはドアに鍵を掛けた。

「白石くん、鍵…」
「ああ、__さんとの時間邪魔されたくないさかい。ほな、食べよか」

近くの椅子を引っ張って来て向かいに座れば、白石くんは「ちゃうちゃう、隣やろ?」と横にあった椅子を指差した。

「と、隣?」
「おん、ほらおいで」

言われるがまま隣に座れば、白石くんとはかなり至近距離で。自然と距離を取ろうと少し横に移動すれば、それを遮るかのよう白石くんにがっちりと腰を掴まれた。

「!白石くんっ手、」
「んー?手?手がどないしたん?」
「えっと、その、腰に…あの、」
「ははっ、ほんま__さんは可愛ええな。あ、俺卵焼き作ってん。__さん、食べてくれへん?」

誤魔化された気もしたが、白石くんの作った卵焼きは美味しそうだったので頂くことにした。「はい、あーん」とお箸で差し出され、戸惑いつつも一口で食べた。食べた瞬間、見た目とは違う奇妙な味が口の中に広がった。卵と、何か…調味料のような、違うような。不味くはないが美味しくもない卵焼きを飲み込めば、白石くんはすごく嬉しそうに話し出した。

「あかん、絶頂やわ。そうそう、昨日言うてた水分補給の話、聞きたい?」
「う、うん…」
「俺もこの前知ってんけどな、尿の色が濃いのは水分不足のシルシやから、__さんもちゃんとお茶飲みや?」
「……え?」

思わず食べかけていたご飯を落としそうになった。何で、白石くんが?検尿の袋は透けない色になっているから、外見だけじゃ分からない。じゃあ、何故彼が知ってるのか。考えられることは一つだけだった。

「__さんの最初の検尿、盗んだん俺やねん」
「えっと、」
「ああ、でもちゃんと半分は返したで?さっき__さんが食べた卵焼きな、__さんの尿入ってんねん。」

平然と話すこの人は、本当に私が知っている白石くんだろうか。込み上げて来た吐き気に立ち上がろうとすれば、がっちりと白石くんにホールドされた。

「ははっ、逃がさへんで?」

危機感を感じて「離して、」と必死に叫んだが、興奮している彼には聞こえていないようだった。そのままズルズルとベッドまで引き摺られ、気付けば私の視界には、白石くんと真っ白な天井だけだった。私に跨る彼の目は、まるで獲物を捕えたような、歪んだ顔で笑うその姿は、もう私の知っている白石くんでは無かった。

「ほな早速、頂きます」


白石蔵ノ介