叶わない恋なら諦めてしまえばいい。

それがあいつの口癖やった。なんで諦めんねん、頑張ればええやないか。俺がそう言い返してもあいつは「謙也は好きな人がいないからそういうことが言えるんだよ」としか言いおらんかった。アホやな、ほんまにこいつはアホや。俺かて好きな子くらいおるわ、


「謙也の幼馴染、結構可愛いなぁ」

きっかけは白石のこの一言やった。たまたま、俺があいつと一緒に帰ってたらバッタリ白石と会ってもうた。その一言で、あいつは今まで見たこともないくらい顔を真っ赤にさせて黙って俯いたんや。そん時は照れとるんや、くらいにしか思ってなくて特に気にも止めんかった。

「白石くんって、どんな人なの?」
「蔵之介くんって、やっぱりモテるんだよね?」
「この前蔵がさ…」

あの出来事から一か月経って、ようやく俺はあいつの気持ちに気付き始めた。でもあいつは知らんことが一つだけある、白石には他校に彼女がいるっちゅーことや。それをあいつに伝えたら、果たして彼女は泣くやろうか?彼女に伝えられないまま、半月が過ぎたとき珍しくあいつに呼び出された。

「蔵がね、この前女の人と歩いてるの見たんだー」
「薄々は知ってたの、蔵に彼女がいることくらい」
「馬鹿だよね、彼女いる人を好きになるなんて」

彼女はとっくに気づいていたのだ、それが報われないことくらい。ダメ元で告白したらええやろ?と提案しても「蔵を困らせたくないから」の一点張りで何度も断られた。いっそ玉砕してしまえばええのに、あいつはまだ中途半端に希望を抱いているように思えた。もし俺が白石なら、こんな思いはさせへんのに。白石の代わりでもええから、喉元までデカかった言葉をグッと飲み込んで足元に転がっていた小石を蹴とばした。

「諦められたら、楽なのにね」

以前と違って儚く笑う彼女がとてもか細く見えた。頑張ればええやないか、なんて言えるわけもなく俺はただ「せやな…」と相槌を打つことしかできひんかった。啜り泣きだす彼女をそっと抱きしめた。なぁ、このくらいしても罰は当たらんやろ?俺はお前が好きや、小さく呟いた俺の言葉は彼女に届くはずなかった。

「謙也が幼馴染でよかった」

無垢な彼女は俺の気持ちも知らずに、嬉しそうに俺の心を抉った。


忍足謙也