Tuesday
メイド生活は至って快適だった。基本的に料理と掃除、洗濯くらいだし、お風呂は広いしちゃんと部屋もある。これは世間一般ではメイドではなく、ただ同居しているだけかもしれない。ただ違うと言えば、主人である彼に料理を教えることくらいだろうか。 思いつきの提案で料理を教える、なんて言ったが景吾は意外とノリ気だった。卵焼きを教えようとすれば茶碗蒸しがいい、と言われたので卵焼きは後日ということになった。
「で、次はどーすんだよ」 「その卵をザルで漉すの」 「あーん?このまま蒸せばいいじゃねーか」 「ダメだってば、まろやかにするために漉すの」
渋々茶漉しで溶いた卵を漉す景吾の姿は、私が想像していた金持ちの坊っちゃんとは掛け離れていた、勿論いい意味で。親しみやすいというか、景吾ってギャップがあるというか。 他にも景吾の要望でチキン南蛮とパスタと簡単にサラダを作ったけれど、洋風なのか和風なのかよく分からない食卓になった。妙に景吾の作った茶碗蒸しが浮き彫りになったけれど、彼は満足そうに笑っていた。
「頂きます」
早速景吾が作った茶碗蒸しを食べたけれど、初めてとは思えないくらい美味しかった。景吾って、料理の才能あるんじゃないの?
「なまえは料理を習っていたのか」 「昔ちょっとだけね、でも一人暮らしし始めたら慣れるもんだよ」
それに対して景吾はそうか、と答えるだけだった。景吾が一人暮らしをしたら、一体どうなるのだろう。
「景吾はさ、一人暮らししないの?」 「……するかもな」
何気なく聞いた質問に対して予想外の答えが返ってきて驚いた。今までメイドに囲まれて生活を送っていた彼が、一人暮らしをするかもしれないなんて。でもあんなに呑み込みが早い景吾なら、コックに料理を教えてもらえば苦労はしなさそうだ。
「なまえが料理を教えてくれるなら、してみたいと思ってる」
いたずらっ子のように微笑む彼に、私は自然と頷いていた。
「一週間後にはそれなりに作れるようになってるかもね」 「…メイドというより料理の先生みたいだな」
真顔で言う景吾に、一週間限定だけど、と笑って返せば、彼は俯きながら「…そうだったな」と呟いた。
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