Monday 

「忍足から話は聞いてる、とりあえず入れよ」

忍足に言われた通りの家に行けば、家ではなく豪邸だった。私が住んでいるマンションの一部屋が跡部くん家の寝室程である。っていうかデカすぎ。

「お邪魔します……」

少し重いスーツケースを持ち上げようとすれば、跡部くんが何も言わずに持って行ってくれた。流石海外生活が長いことだけあって、忍足と違って紳士だ。その点忍足は、女子に対する配慮が欠けている。あの野郎、話を引き受けた後に「実はメイドって、一週間泊まり込みっちゅうか住み込みやねん」と白状しやがった。こんな豪邸に一週間も住めるか不安だったが、ホテルに泊まりに来ていると思えば納得だった。

「跡部くん、メイドって何すればいいの?」
「景吾でいい」
「へ、?」

自分で思った以上に間抜けな返事だったが、跡部くんは気にせず「俺の呼び方は景吾でいい」と言われたのでこれからは、というか一週間限定だけど景吾と呼ぶことに決めた。

「メイドっても、料理とか掃除ぐらいだ」
「分かった。ってか景吾ってさ、ゆで卵も作れないの?」
「………は?」

忍足に聞いたんだけど、と言えば額に青筋を浮かべながら「…あの野郎、」と拳を震わせていた。

「はっ、ゆで卵くらい作れるっつーの」
「へぇ」
「簡単だ。電子レンジで加熱するだけだろ、あーん?」

…待て待て待て。え、今何て言った?卵を、電子レンジで加熱?

「あのさ、電子レンジでゆで卵は作れないよ。」
「あーん?なまえは文明の機器の電子レンジの素晴らしさを知らないのか?」

これだから庶民は、みたいな目で見られたけどそれはこっちの台詞である。これだから坊っちゃんは、だ。だからメイドなんてしたくなかったんだよ。しかし一度引き受けてしまったものは仕方がない。

「…よし、明日は講義ないから、景吾に料理を教えてあげる!」

本来メイドがでしゃばってはいけないのは重々承知なのだが、電子レンジでゆで卵を作ろうとするのは、やはりよろしくない。私の提案に目を見開きながら「考えておく」と言った後、景吾は自室に籠もってしまった。
その晩、私が作ったポトフを一緒に食べている時、明日料理を教わってやってもいいぞ、と言う景吾の横顔は、少しだけ赤かった。



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