その優しさに縋り付く

部室を出てから亮が可笑しい。正確には朝練から、だけど。

「名前、長太郎と前から知り合いだったか?」
「鳳くん…と?亮に紹介されるまで初対面、だったよ」
「だよな!」

くしゃっと笑う亮に曖昧に頷くことしか出来なかった。私のせいで、ペアが解消なんてされたらたまったもんじゃない。亮には、気付かれないようにしないと。

「なんかよ、忍足が変な事言うから心配しちまった」
「お、忍足…が?」
「ま、気にしてねーけどな」

ドキン、嫌な動悸がした。忍足が、亮に言った…?そんな、まさか、

「じゃあまた昼休み!」

亮と別れて教室に入ればまだ跡部はいなかった。昨日の今日で顔合わせしにくいけれど、クラスが一緒なのは仕方ないことだ。ボーッとしながら授業の用意をすれば、至近距離から名前を呼ばれた。

「名前さん」
「!日吉、ここ三年の教室…ってかもうすぐ授業」
「昼休み、裏庭に来て下さい。話があります。」

それだけ言えばさっさと教室を出て行ってしまった。日吉が教室を出る時、入れ違いで跡部が入って来たので日吉は跡部に一礼してから出て行った。

「…よぉ」

気まずそうに話しかける跡部を無視すれば、始業のベルが鳴ったので跡部は自分の席に戻って行った。授業中何度か跡部からメールが来たが全て読まずに削除した。
そんな中、普段はあまり連絡を取らない向日から何故かメールが来た。しかし見れば空メだったので、何かの間違いかと思い返事はしなかった。
休み時間の度に話しかける跡部を無視するのは流石に周りの目もあったので、適当に相槌を打ちつつ何度か話しかけないで、と言ったが跡部のことだから気にしてないだろう。友達になってから跡部の神経の図太さには驚かされたものだ。そんな友人関係も、私の中では昨日で終わったのだけれど。

昼休み、亮に罪悪感を感じながらも日吉の呼び出しに応じることにした。メールで昼休みに会えなくなった、と断りを入れて裏庭に行けば既に日吉はご飯を食べながら待っていた。

「…はやすぎ」

昼休みが始まって五分しか経っていない。何より二年のクラスから裏庭は一番遠いハズなのに。日吉の隣に座れば、お互い黙々と食べるだけだった。日吉が食べ終わって数分後、私も食べ終わればやっと日吉が話し出した。

「跡部さんや忍足さんと、何かありましたよね」

疑問符の付かない、まるで初めから事実を知っているかのように尋ねる日吉に驚いた。

「…聞いた、の?」
「いえ。俺の憶測ですが、自信はあります。」
「……そう、日吉は目ざといね。」
「多分、俺だけじゃなくて芥川さんも気付いてますよ」
「……うん。そうかもね」

朝練の時のジローくんを思い出せば、やっぱりジローくんも目ざといんだと思った。普段はちゃらんぽらんなのにね。変なとこだけ勘が鋭いんだから。

「俺じゃ、ダメ…ですか?」
「え…、」
「名前さんの、相談相手」

急に真面目な顔で話す日吉から目が離せなかった。相談相手になりたい、と言う日吉を無下に扱うことも出来なかった。それは多分、私自信誰かに救って欲しかったからだと思う。亮に言えない分、誰かにぶちまけたかった。それが誰でもいいわけがないけれど、日吉ならいいかな…そんな思いが少なからず私にはあった。

「…日吉、あのね、わたし、」

話し出した私は、止まらなかった。何も言わず、最後までただ手を握って聞いてくれる日吉の優しさに思わず涙が零れた。



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