曖昧に濁した言葉

最近、彼女である名前の様子が可笑しい。一週間ほど前からテニス部、特に長太郎を避けているのは俺から見てもあからさまだった。それでも聞けば「何でもないよ」の一点張りで、正直俺が頼りにならないのかと凹んだ。

「…激ダサだぜ」
「宍戸さん、?」

突然ラリーをやめた俺に、長太郎は不思議そうにしていたが「部室にタオル忘れたから、取ってくる」と伝えれば、はい!と元気の良い返事が返ってきた。
部室まで行けば、帰ったはずの忍足が制服のまま扉の前に立っていた。少しダルそうに扉にもたれていたが俺に気付けば手を振りながら近付いて来た。

「お前、まだ帰って無かったのかよ?」
「宍戸は鳳と練習かいな」
「あぁ、お前も一緒に練習するか?」
「いや、ええわ。さっきまで運動しとったし」
「…制服のままで、か?」

俺の質問に対し、曖昧に笑う忍足を見て少し違和感を感じたが余り気にしないことにした。こいつの女遊びが激しいのは今に始まったことじゃないし、何より俺には関係ない。

「せや、いいこと教えたろ」
「……何だよ」

勿体ぶるように間を置いてから「お前の彼女、鳳のセフレやで」と忍足独特のあの嫌な笑みを浮かべて告げた。

は?
何言ってんだよ、こいつ。

俺の頭は上手く回らなくて、忍足の言葉が理解出来なかった。名前が長太郎のセフレ?んなわけねーだろ。

「おい忍足。笑えねーぞ、そのジョーク」
「冗談ちゃうんやけどなぁ…。まあええわ、そのうち分かることやさいに」

ほな、と颯爽と去る忍足から視線が外せなかった。あいつが、長太郎の、セフレ…?まさか。紹介した時、つまり先週ほぼ初対面だった長太郎と名前が?

「宍戸さん!」
「ちょ、長太郎…」
「?どうしたんですか」
「何でも、ねーよ」

無邪気に笑う長太郎に裏があるとは思えねえ。そうだ、忍足の冗談に決まってる。長太郎と名前を疑うなんて有り得ねえ。長太郎とずっとペアを組んでたから分かる、こいつは素直な奴だ。ったく、忍足の冗談を真に受けるなんてちょいダサだぜ。

「練習、再開すっぞ」

でも、さっきからまともに長太郎の顔が見れない方が、よっぽど激ダサかもしれねー。



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