「最近元気ないけど、なにかあったのか?」
「りょ、う」
あれから一週間経ったが、まだ亮とは別れていない。あの日は結局亮の電話には出ず、教室で下校時間になるまで泣いた。幸い、他の生徒や先生に会わなかったのであの日のことはバレていない。私の中でも忘れようとしているので、出来るだけテニス部には近寄らないようにしていた。
「…本当に大丈夫か?」
「うん、平気。」
「あんま、無理すんじゃねーぞ」
「宍戸さん!」
不意に亮を呼ぶ声がして、振り向けば張り付けた笑みで鳳くんが私たちの元に走って来た。
鳳 く ん が 、 怖 い 。
「…っ、亮ごめん。私先に教室戻るね」
「あっ、おい!」
鳳くんを見ず、横を通りすぎようとすれば、私にしか聞こえない声で「今日、化学室で待ってますね」と言いあの冷めた目で笑っていた。
*
化学室に行けば鳳くんだけでなく、忍足と跡部がいた。
「え…、」
「なんや、ほんまに宍戸の彼女、鳳のセフレやったんかいな」
「!ちが」
「先輩、先週俺と教室でヤッたじゃないですか」
「あれは無理矢理…!」
「ま、なんでもええわ。ほんまに好きに犯してええん?」
「いいですよー、この人淫乱なんで」
勝手に話を進める鳳くんと忍足に、跡部はただ見ているだけだった。
「じゃ、あとはお任せします。俺は宍戸さんと練習するんで」
「ほな早速ヤッてしまおか」
「っ!忍足やめて」
いきなり服越しに胸を触る忍足の手を払えば、両手をネクタイで縛られた。
「強情な姫さんやなー。ま、そっちの方が犯し甲斐あるんやけど」
「や、嫌っ!跡部、助けて!」
今までただ黙って見ているだけだった跡部に助けを求めれば、跡部は黙って近付いて来た。そして私は段々と近付く跡部に気付いてしまった、彼が一番欲情している目だということに。
「堪忍なぁ、この計画したん跡部やねん」
「え、」
「宍戸を選んだお前が悪い」
行為の最中、跡部は何度も私の名前を呼んだ。逆にそれが辛くて、いっそのこと忍足みたいにただの性欲処理としてシてくれる方が楽だ。
ヤルことだけヤッて、さっさと服を整える忍足の背中をただ眺めていた。帰りぎわ、「また溜まったら相手してな」と言う忍足に無言で睨んだけれど彼は気にする素振りもなく化学室を後にした。黙って服を整える私に「…帰るなら、送る」と言う跡部に苛ついた。
「っ、話し掛けないで!」
「…悪かった」
「跡部は、謝れば…済むと思ってるかもしれないけど。…じゃ」
帰ろうと扉に手をかけた時、跡部が「 」と叫んだ言葉は聞こえないフリをした。だって、そんな、跡部とは仲の良い友達だったのに。
私の中で、何かが狂った気がした。
(お 前 が 好 き だ)