「気付いとったんか」
俺が参謀じゃないということに。
変装には自信あるんじゃがのぉ、と髪をいじりながら自嘲するように呟いた。チラリと目の前の彼女を見ても、なにも反応してくれないことが余計惨めに思えた。
「仁王に足りないものは……−−」
期待していた自分が馬鹿だった、どうせ俺には彼女と彼の絆は超えられないのだ。結局、俺が何も変わっていなかっただけだ。あの頃から、なにも。普段は留めていないユニフォームの一番上のボタンを外したけれど、相変わらず息苦しいままだった。
「こういう時、どうしてええか分からんぜよ。」
好きじゃ、お前さんが。好きなんじゃ、あの時からずっと。
泣きそうになるのを堪えて愛おしく頬に触れても、名前は顔色一つ変えずジッと俺の口元のほくろを見た。ああ、もう目を見てもくれないのかと思うと本当に泣きたくなった。
「…ごめんなさい、わたし行かないと」
亮のところに、と小さく付け足した彼女は一瞬だけ俯いた。本当に会いたいのは宍戸なんか?と尋ねたかったがこれ以上傷つくのが怖くて黙って手を離した。走り出す彼女の後姿を見て、あの日お守りをきちんと返しておけばよかったと心底後悔した。
はたして俺は、彼女に何を望んでいたのだろうか。
大事なものを盗んで、参謀に成りすまして彼女に会って、本当にこれが幸せなのだろうか?俺にとっても、彼女にとっても。彼女に優しくされたかったわけじゃない、突き放してほしかったわけでもない。ただ…
「名前、これで終わりじゃ。」
もう答えが出ているのに、それに気付かないフリをしたかったのは何故だろう。結局俺も、思惑通りに動いていただけなのかもしれない。誰もいない校舎の裏にしゃがみ込んで、そっと瞼を閉じた。