下種と鷹とに餌を飼え

みんなの分のドリンクを用意している時、初めまして。と声をかけられた。えっと、と戸惑う私を他所に目の前の男の子は私に手を差し出した。

「俺は立海大附属テニス部部長の幸村精市だよ。改めて宜しくね、名前ちゃん。」

よろしくお願いします、と握り返せばクスリと笑われた。

「同い年なんだから、敬語は辞めてよ」
「あ、えっと、うん…」

もしかして人見知り?と幸村くんに聞かれたけれど、別にそういう訳ではない。違うけど、と言いかけた時「跡部のこと?」とどこか嬉しそうに聞かれた。違うよ、と否定をしたけれど「跡部でしょ、」と再度尋ねられた。

「柳蓮二、仁王雅治、宍戸亮、跡部景吾、忍足侑士、その他にもたくさん選択肢はあるよね」
「…、なんのこと?」

本当はよく知ってるんだ、君のこと。
宍戸と付き合ってることとか、初恋が蓮二とか、その他にも色々ね。情報なんてちょっと本気を出せば直ぐにたくさん集まるよ。勿論、きちんとしたソース付きでね。

「じゃあ鈍い名前ちゃんに教えてあげるよ」

私は友達だった跡部に嵌められて蓮二と再会したんじゃない、あれは跡部が仕組んだのではなかったのだ。

「宍戸は君を幸せには出来ない。だから名前ちゃんは選ぶ権利がある」
「わたしは、亮以外…」

そうだ、今更蓮二と会おうが私には関係ない。私が好きなのは、亮だけなのだから。跡部でも忍足でもない、私の恋人は紛れもなく亮しか有り得ない。

「いま、誰が試合をしてると思う?」
「…ジローくんじゃないの?」

蓮二と宍戸だよ。
幸村くんの言葉を聞いて、ドリンクを置いたまま私はコートまで走った。何でこんなに焦っているのかは分からない、でも何故か嫌な予感がする。コートに着いた時には、すでに亮の試合は終わっていた。近くにいた真田くんに亮がどこにいるか聞いても、当然だけど分からないと言われてしまった。
行きそうな場所を探したけれど、何処にもいない。このまま亮が、何処かに行ってしまいそうで私は怖かった。亮、と小さく呼んだ時後ろにギュッと引き寄せられた。

「…久しぶりだな。四年と三日ぶりか。」

どうしてこういう時に限って、亮に会えないのだろう。何も言わない私を見て、不思議そうに彼は首をかしげた。四年経っても分かってしまう私は一体何なのだ。

「…、蓮二じゃないでしょ」

振り向くとそこには、悲しそうな目をした詐欺師が立っていた。



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