嫌いな僕が見えていますか

宍戸さんと柳さんが試合をしている途中、俺は呼び出された。頭が痛い、赤裸々に語るこの人からは逃げられない…そんな気がした。ドクドクと脈打つ鼓動を感じながら、直立しているので精一杯だった。でも…一つだけ、誤算があります。

「俺はあんなアバズレビッチ、好きじゃありませんよ」

そう、と微笑んでから幸村さんは立ち去って行った。幸村さんの姿が見えなくなってから、堅く握っていた手を開ければ、薄らと汗が滲んでいた。いつの間にか、ひっきりなしに脳内で暴れ回っていた頭痛は、ピタリと止んでいた。やっぱり、神の子には叶いませんね。まさか部外者である幸村さんが、あそこまで知っているなんて。

宍戸さんの試合を見に行こうとコートまで戻る途中、芥川さんが芝生で寝転んでいるのが見えた。芥川さんは宍戸さんの試合が気にならないんでしょうか?

「芥川さん、試合見ないんですか?」
「宍戸の試合、もう終わったよ〜。今は立海の玉子くんと樺地の試合だC〜」
「…宍戸さんの試合、終わったんですか?」
「柳のストレート勝ち〜」

幸村さんに呼び出される前は、2ー0だったのに。流石王者と言うんでしょうか、それとも「一種の意地」なんですかね?

「樺ちゃんの試合が終わったら、次は丸井くんと鳳の試合だよー」
「…分かりました」

丸井さんと、か。これを組んだのもきっと、跡部さんか幸村さんなのだろう。気付けば芥川さんはすやすやと眠っていた。そっと立ち上がって、俺はある場所に向かった。



「っ、くそ…!」

コートから死角の裏庭に行けば、宍戸さんがラケットを握ってうなだれていた。宍戸さんはいつも、負けたらこの場所にいる。それを知っているのは、ペアの俺と跡部さんだけ。マネージャーでもない名前さんは、知っている訳がない。唯一、名前さんの知らない宍戸さんを俺が独占出来る場所だ。近くまで歩み寄り「宍戸さん…」と小さく呟けば宍戸さんはゆっくりと振り向いた。

「長太郎。…お前がコートにいなかったなんて、珍しいな」
「っ、知ってたんですか…?」
「ペアなんだから、気付くに決まってんだろーが。」
「……ちょっと、打ちに行ってました」

そうかよ。と対して気にしてなさそうな宍戸さんに、少しだけ罪悪感を感じた。

「あーあ、完敗だぜ。激ダサ、だな」
「そんなとこないですよ」
「……長太郎、試合の話じゃねーよ。」

試合の結果じゃねーんだ、俺自身の問題なんだよ。髪を掻き毟りながら俺を見る宍戸さんを見て、また頭が痛くなった。

「そろそろ長太郎の試合だろ?コート行った方がいいんじゃねーか?」
「…そう、ですね」

宍戸さんに見送られるようにその場を立ち去った時、名前さんが柳さんと話しているのが見えた。けれどお互い笑い合ってるわけではなく、どこかギクシャクした雰囲気を醸し出していた。その様子が、過去の名前さんとダブって見えた。過去(自分のしたこと)を思い出せば、少しだけ頭が痛くなった。

跡部さんが、誘うから。そう、俺は話に乗っただけ。今だって、昔(あの時)と同じで幸村さんの話に乗っただけ。これは利害の一致だと、幸村さんは言った。その表情が、どこか跡部さんと似ていた。
本当に、俺は跡部さんではなく幸村さんを信じて良かったのだろうか?ずきずきと痛む頭を押さえながら、コートに向かった。



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