嫌な予感

「来週の練習試合、マネージャーすることになっちゃった」

昼休み、いつものように一緒にご飯を食べていれば名前はため息を吐きながらそう言った。昨日、その話題になった時跡部だけでなく忍足や向日も跡部の提案に賛同した。長太郎は不満そうだったが、跡部に逆らえないのか最終的に賛成していた。唯一反対していたのは俺と日吉くらいで、結局多数決で決まったのだが、何か納得いかねぇ。だってよ、向日までもが賛成するんだぜ?あいつこの前俺が名前を部室に連れて行った時は"部外者"扱いしたくせによ。手のひら返すかのようにマネージャーに賛成なんて可笑しくねーか?ったく、大体テニス経験者がいいなら同じテニス部の奴らか、女子テニス部の奴らを使えばいーじゃねーか。何で名前なんだよ。…あいつら、俺に何か隠してんのか?最近向日とか、妙によそよそしい気がすんだよな。

「…う、亮?聞いてる?」

ボーッとしてたから名前の顔がかなり近いことに今更気付いた。思わず目を見開いたが、そのまま目を名前から離さず疑問をぶつけた。

「なぁ、名前ってテニスしてたんだよな?」
「え?うん、してたよ」

あっさり認めた名前は「それ、日吉にも聞かれたんだ」と苦笑していた。「…日吉?」何であいつが名前に聞いたんだよ。つーか、何で名前が日吉と話してんだよ。ムッとした顔をすれば俺の心を読んだのか「今朝たまたまコンビニで会ったの」と言われた。

「…日吉の家と名前の家、近くねーのに何で会うんだよ」
「ランニングじゃない?分からないけど、別に待ち合わせしてた訳じゃないし、日吉も待ち構えていたわけじゃないよ。」

俺の不信感を読み取って言ったのかは知らねーけど、後輩だけでなく彼女まで疑うなんて、自分でも最低だと思った。ったく、嫉妬なんて激ダサだぜ。

「テニスクラブに何年くらい通ってたんだよ?」
「んー、三、四年かなあ。」
「中学でテニス部に入ろうとか思わなかったのかよ?」

うん、私向いてないからね。と名前は笑って言ったが、何となくそれが理由じゃないような気がした。
その時予鈴が鳴ったので、慌てて立ち上がろうとする名前の唇に触れれば、顔を真っ赤にて背蹴られた。「恥ずかしいじゃん、」と顔の火照りを取り除くようにぱたぱたと仰ぐ手を、咄嗟に掴んだ。何故掴んだのかは自分でも分からなかったが、その時嫌な予感がした。

「亮?」
「俺ら、別れねーよな…?」

ギュッと手を握ったまま問えば「別れないよ」と笑って返された。

「だったらいーんだけどよ」

俺が弱気なんて、らしくねぇ。そのくらい俺は名前がいねーと駄目なんだ。跡部や長太郎なんかに渡すかよ。俺はあいつらよりも、テニスよりも、名前が大事なんだ。



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