忘れてしまった、

「−−くん、私大きくなったら−−くんのお嫁さんになる!」
「名前、話があるんだ」
「ん?なぁに」
「俺、−−−…」

そこで私は目が覚めた。こんな昔の夢を見るなんて、これは十歳まで通っていたテニスクラブで知り合った彼との最後のやり取り。彼はその後テニスクラブに来なかった、そして私もテニスを辞めた。
私は、彼がスゴく好きだった。でもそれは所詮小学生の初恋、一年も経たないうちに彼のことを忘れてしまった。けれど時間が経てば経つほど、こうして夢に出て来る。それでも、彼と交わした最後の会話はおろか、名前すらあやふやなままだった。

時計を見ればまだ四時過ぎだったが、二度寝する気にはなれなかったからそのまま起きることにした。ふと何か甘いものが食べたくて、家の冷蔵庫を開けたがスイーツなど入っているわけもなく、仕方なく近くのコンビニに行くことにした。早朝に起きてコンビニに行くなんて、初めてかもしれない。コンビニに入れば、何故か見慣れた人物がいた。

「え、日吉?」
「…名前さん、」

何してるの、と聞けば「寝れなかったので」とよく分からない返事をされた。

「名前さんこそ、何してるんですか」
「私?スイーツ買いに来ただけ」

目当てのスイーツコーナーに行けばお気に入りの杏仁豆腐があったので迷わずそれを手に取った。コンビニのスイーツって、無駄に美味しいんだよね。

「あの、名前さんって、テニスしてたんですか」
「え、」

日吉の言葉に思わず硬直した。何で、それを、日吉が?テニスをしていたことは、亮はおろか誰にも言ってないのに。ただ黙ったままの私を答えと見たのか「変なことを聞いて、すみません」と謝られた。

「うん、してたよ。十歳で辞めちゃったけどね」
「……そう、ですか」

レジを終えれば、日吉と少し気まずい空気の中別れた。って言っても、数時間後また学校で会うんだけど。帰って杏仁豆腐を食べ終わると、少しだけ眠かったので横になれば、結局起きたのは何時もの時間と同じだった。
でも今日は、亮とは一緒に登校しない日だから少しゆっくりできる。そう思って髪を梳かしている時「友達が迎えに来てるよ」とお母さんに急かされた。
友達?誰だろう、準備を済まして玄関を開ければ、目の前にいたのは跡部だった。

「…よぉ」
「何、跡部とは絶交したんだけど」
「話があって来た。取り敢えず学校行くぞ」

跡部に引っ張られる様に家から出た時、初めて気付いた。跡部が、車ではなく徒歩で私の家まで来ている。しかも、付き添い無しで。跡部という人間は近くのコンビニに行く時でさえ車を使う奴なのだ。過去にヘリコプターで学校に来たという武勇伝を持っているやつでもある。私の家から跡部の家まで、結構遠いはずなのに。

「……徒歩で来たの?」
「まぁな。片道一時間かかった」

バッカじゃない、跡部に聞こえないよう小声で言えば聞こえていたのか「…うるせえ」とそっぽを向かれた。

「話って、」
「来週、他校と練習試合をする時…臨時でマネージャーをしてほしい」
「ごめん、私には出来ない」

頑なとして断っても「頼む、一日でいい」と必死な跡部に、ついに私が折れた。

「その代わり、もう私を振り回さないで」

交換条件で今後必要以上に私と関わらないことを約束すれば、跡部は「…分かった」と頷いてくれた。その時跡部が卑しく笑っていたのに、私は全く気が付かなかったのだ。それから跡部と一緒に登校したが、お互い特に話すわけでもなかった。ただ一緒に歩いているだけ、そんな感じだったので特に注目の的にもならなかった。

…そういえば、跡部は他校って言ってたけど何処の学校だろう。ふと授業中そんなことを思ったけれど、まぁ何処でもいいか、と思ってあまり気にしなかった。



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