君を救えない傍観者

跡部に呼ばれて生徒会室まで向かう途中、ばったり名前と会ったのは予想外だった。普通に接してくれる名前に、少しだけ俺の良心が痛んだ。昨日までの俺なら、純粋だったのに。
空メのことを聞かれて本当のことは言えなかった。侑士に放課後呼び出すよう脅されてたなんて、絶対言えねー。

「ごめん」

せめてもの償いで名前に謝罪したのは、所詮俺のエゴ。何も知らないあいつは、不思議そうな顔をしていた。


「遅いじゃねーか」
「…悪ぃ跡部、」

生徒会室まで行けば跡部はダルそうにパソコンを弄っていた。そのまま言われていた資料を渡した時、不意に跡部が眉をひそめた。

「さっき、忍足と会ったか?」
「?いや、名前にしか会ってねーけど」
「………そうか」

ただひたすら跡部が資料を捲るだけの、このピリピリした空気に耐えられなくなって生徒会室を出ようとすれば、跡部に呼び止められた。

「忍足は部活か」
「侑士?遅れるらしーけど」

それを聞いた途端跡部はスゴく怖い顔で「俺も今から部活に行く」と言うので、気まずいまま跡部と一緒に部活に行った。部室に入れば、既に宍戸以外レギュラー全員がいた。跡部を見て鳳が「宍戸さんなら、コートにラケットを忘れたらしいので、今取りに行ってます」と言っていたが、なんでコートにラケットを忘れたんだ?あいつがラケットを置き忘れるなんて、

「なんや跡部、もう生徒会の用事済んだんかいな」
「そういう忍足こそ、今日は遅れるって向日に言ってたんじゃねーのかよ」
「はよ済んだだけや」

跡部が何かを言い掛けた時、タイミング悪く宍戸が戻って来たので二人はそこで言い合いを辞めた。

「?跡部は生徒会じゃねーのかよ」

部室にいる跡部を不思議そうに見る宍戸は何処か前よりも男らしく見えた。男子三日会わざれば刮目して見よ、だっけ?数時間会わねーだけでこんなに変わるもんなのかよ。くそくそ、俺も宍戸くらい男らしかったら良かったのに。

「来週の立海との練習試合のことで話があってな」
「あー、来週だっけ」

慈郎の要望で練習試合をしてから、定期的に立海とするようになった。主に俺らが立海に行くが、今回の試合は幸村くんの要望で氷帝学園で試合をする事になっていた。
つまり、跡部が生徒会の用事と言っていたが実はあれは来週の立海との予定や準備を決めるための用事なのだ。それを知ってるのは資料を運んだ俺といつも跡部に仕えている樺地くらい。跡部は陰ながら努力する奴なんだ。俺、そーゆー跡部が好きだったのに。

「来週の練習試合では、名前を臨時のマネージャーにする」

跡部の発言で、みんなが固まった。は?何だよそれ、宍戸はあからさまに不快そうだった。名前はマネージャーではないのだから、理解し難いのも無理はない。
「、ほんまかいな?」関西弁独特のイントネーションは何処か声が震えていた。あの心を閉ざすのが得意な侑士でさえ、跡部の発言で動揺していた。が、それよりも俺は見てしまった。

慈郎がすっげー嬉しそうに笑っているのを。



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