悟られないよう毒牙を向ける

「なんや、仲直りしたんかいな。面白ないなぁ…」
「…なんで、忍足が、」

堂々と私の席に座っていたのは、忍足だった。怠そうに携帯を弄っていた手を止め、パタンと折り畳めばゆっくりと此方を振り向いてきた。

「ん?自分待っててん」
「…忍足と話すことなんか、ないから」

カバンを掴んでそのまま帰ろうとすれば忍足に阻止されて、それは叶わなかった。

「っ、離して」
「なぁ、どうしたら宍戸と別れてくれるん?何で別れてくれへんの?どうやったら俺のもんになる?」

いきなり忍足から紡ぎだされた言葉は、理解するのに時間を要した。

「…なに、言ってんの?」
「そのまんまの意味なんやけど。あー、しゃあないはっきり言うわ。名前のことが好きやねん」

思わず持っていたカバンを落した。落した瞬間、運悪くクリアファイルからバサバサと紙が落ちたが、それを拾う余裕もなかった。

「落としたで?」
「………嘘、だよね?」
「ほんまやって。あ、俺関西弁やし信じて貰えへんのか?本当本当」

笑いながら言う忍足は昔と変わらない笑みだったが、その笑みが怖かった。マジなんだって、と嘘臭い標準語で話す忍足に、以前なら「嘘っぽいから」とか言えたのに、今は顔を引きつらせるので精一杯だった。

「ごめん。私、忍足をそういう風に見たことない。」

思い切って言葉を紡げば自分でも驚くほど弱々しかった。きっとそれは跡部とは違って、クラスが違う分友人としての距離があったからだと思う。今思えば跡部は近過ぎたのだ。近過ぎたにも関わらず、跡部の気持ちに気付かなかった自分が憎い。

「……それは、宍戸がいるからなんか?いつまでも宍戸が名前を縛ってるんか?宍戸と別れたら考え直してくれるんか?俺を選んでくれるんか?」
「なに、言ってんの…?」
「せやなぁ、そこから考え直さなあかんもんなぁ。教えてくれてありがとう、ほな」

通り過ぎ様頭を撫でられてハッとした。いま、忍足は何て言った??上手く働かない脳を必死に浮かしたが結局忍足の考えていることは分からなかった。
取り敢えず落とした紙を拾ってカバンにしまえば、既に教室に来て三十分も経っていた。

「…帰らないと、」

下駄箱に向かって小走りに走った時、見慣れたおかっぱの赤髪とぶつかった。

「っ、あれ向日?」
「お前…今から帰んのかよ」
「うん、そう言えば…あの空メ何だったの?」

空メの話を出せば一瞬向日の顔が曇ったが、「何でもねーよ」と言われ顔を背蹴られた。

「じゃあ俺跡部に呼ばれてるから、」

そこまで向日が言い掛けた時、ハッとした顔で此方を見てから気まずそうに去っていった。擦れ違う瞬間「ごめん」と確かに向日が言った気がした。

何故あの時向日が謝ったのか、その理由に気付くのは、もっと後になってからだった。



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